第2話
「間違っていますわ!」
現在ロレッタは、貴族学園に入学して約半年。生徒会に所蔵している。
この貴族学園は、15歳の成人後2年間通う。
(アルスハイム王国は15歳で成人となる)
貴族学園を卒業出来なければ、貴族として認められない。
通常、生徒会は2年生で、1年時の成績上位者が選ばれる。
しかし、現2年生が1年生だった頃、選ばれた次期生徒会長以外の生徒会候補全員が辞退したのである。
それは、次期生徒会長に第二王子が選ばれたからだ。
第二王子は、高慢で成績も上位とは言えない。
次期生徒会長は、現生徒会が選定する。そして、選ばれた次期生徒会長が次期生徒会役員を任命し、現生徒会と引き継ぎを行なう。
生徒会に所属する事は、とても名誉な事で、将来の進路にも有利である。
それほど、第二王子に人望が無く、その後は誰も候補者が現れなかった。
第二王子を選んだ前生徒会や、担当教師も、色々と尽力したが、一度決定した事を覆すことは難しく、結局卒業を迎えてしまった。
なぜ、第二王子が次期生徒会長に選ばれたのかは、結句分からないままであった。
生徒会の担当教師は、生徒会に関する権限はほとんどない。
無機責任に感じるかもしれないが、生徒は既に成人している大人であり、生徒会役員は基本的に優秀な人材の集まりである。そのため、担当教師は"相談役"のような立場である。
やむを得ず、生徒会長は第二王子のまま、生徒会役員は担当教師によって、新入生の成績上位者から選ばれた。
ロレッタと、同じ年で唯一の友人であり、親友でもあるリディアも生徒会の役員に選ばれた。
リディアは、スターノヴァ侯爵家の長女である。
スターノヴァ侯爵家も3大侯爵家の1家で、さらに筆頭侯爵家でもある。
そして、2年生である第二王子が生徒会長で、その他の役員が全て1年生という今までにない状況となった。
生徒会規約には生徒会長及び生徒会役員が上位成績者である事、2年生である事、とは記載されていない。あくまで今までの慣例によるもので、規約上の問題は無い。
しかし、生徒会長である第二王子が全く生徒会の仕事をしない、いや出来ないのだ。
生徒会役員となった1年生も、引き継ぎされていないため、未だに残された資料などを参考にしながら、手さぐりでなんとか仕事をしている状況である。
1年生の生徒会役員達は、そんな生徒会長に、ついに限界が訪れた。
そこで、副会長であるロレッタが学園の王弟であり、公爵家の当主でもある理事長に間違っていると、抗議したのである。
第二王子の同級生はもちろん、在校生や卒業生、その親である各貴族家、学園関係者も第二王子に問題がある事は、彼が入学した時から知っていて、理事長に抗議文を送るなどの対処をしていた。
ただ、高慢な性格や怠惰な生徒は他にもいるので、学園内の問題は学園内で対処するべき、という結論となり、学園側に任せていた。
理事長も色々と手を尽くしたが、改善されなかった。
結果的に、生徒会はなんとか機能しているので、生徒会長は第二王子のままとなった。
しかし、生徒会室には、生徒のプライベートな情報や、学園の財務関係の資料、生徒の苦情や問い合わせなど、機密情報がたくさん存在する。
そこに、仕事をしない(出来ない)第二王子が入室するのは、情報漏洩の可能性が高い。
そこで、第二王子には生徒会の仕事はさせない事。生徒会室の入室に制限を設ける事(生徒会室には、会長室、副会長室などの役員室、応接室、会議室、資料室など複数の部屋がある)。副会長であるロレッタに会長職の全権を委譲する事で、渋々この状況を受け入れた。
当然、第二王子は反発したが、既に生徒会役員候補が全員辞退する、という失態を犯している。
これ以上問題を起こすなら退学処分もあり得ると言われれば納得するしかない。
そしてここに、前代未聞の何の権限もない生徒会長が誕生したのであった。
◆◇◆◇◆◇◆
この貴族学園の歴史は大災害による大飢饉より以前にまで遡る。
それまでは"王立貴族学園"という名称であった。
王立貴族学園の設立以前は、貴族令息、令嬢の質が悪く、社交界で様々なトラブルを起こしていた。
それだけならトラブルを起こした貴族家に注意すればいい。
しかし、先代の後を継いで貴族家当主になった後でも、まともに領地経営をしなかった(出来なかった)り、他の貴族家とトラブルをおこしたり、と看過出来ない事が増えていた。
そこで当時の国王は、貴族としてのマナーや教養、国内外の情勢などを学ぶために王立貴族学園を設立。
さらに、卒業出来る水準に達しない者は貴族として認められず、貴族籍を得る事が出来ないようにした。
貴族籍がなければ、当然家督を継ぐ事は出来ない。
貴族家の令息、令嬢を名乗る事は禁止されていないが、学園を卒業出来ない者を貴族家の者が許容する事はほとんど無く、廃嫡か勘当処分とする場合が多い。
このような背景から、王立貴族学園が設立され、次第にそれによる効果が出てくるようになるのであった。
しかし、大災害による大飢饉後。"前国王のやらかし"によって王宮の混乱や各貴族家からの信頼を失った事によって、王家や王族の資産は激減。今後の増収も見込めない事から、王立貴族学園を維持する事が出来なくなった。
そこで、筆頭侯爵家であるスターノヴァ家を含む3大侯爵家が中心となって、学園を維持する事になった。
そして、"王立貴族学園"から"王立"が削除され、"貴族学園"と名称が変更された。
その後、現国王になってから、貴族学園は王家が維持するようになり、現在までの維持費も支払い終えたが、名称は"貴族学園"のままとした。
◆
後に、ロレッタが2年生に進級する少し前に、次期生徒会について検討会が開かれた。
次期生徒会は、ロレッタとリディアは引き続き務める事になっていたが、その他の役員については、一度見直す事になった。
その過程で、大きな問題が発生した。
生徒会のこの1年間の正確な業務報告書が、王弟でもある理事長によって隠蔽、改ざんされていた事が国王に露見したのである。
匿名の内部告発によるものであった。
第二王子が生徒会の仕事をしていない事は周知の事実であったが、理事長が改ざんした報告書により、国王はその事を正確に把握していなかったのである。
王家や王族と各貴族家の関係の希薄さが仇となった。
理事長は、第二王子の所業の詳細を、国王が知る事になれば、監督責任を問われる事を恐れて、犯行に及んだのであった。
国王は今回の不祥事を重く捉え、筆頭侯爵家の当主であるスターノヴァ侯爵に、事情を説明し謝罪した。
やっと貴族家との関係が緩和してきたところにこの問題である。
しかし、先に国王に露見した事は不幸中の幸いであった。スターノヴァ侯爵が先であれば、事態はもっと酷いものになっていただろう。告発者もそれが分かっていたのかもしれない。
王太子である当時第一王子と第一王女が問題無く卒業したので、油断していた。
貴族学園での不祥事なので、国王が退位するほどの事ではないが、少しでも貴族家との関係を保つために、当事者には厳しい処分が下された。理事長は当然解任、爵位も剥奪となった。第二王子は退学となり、廃嫡となった。
国王は今後、王家や王族の学園への関与を禁じる処分を下し、王家や王族はそれを受け入れた。
つまり、理事長就任はもとより、教員としての採用も禁じられたのである。
そして今後、貴族学園については、スターノヴァ侯爵が中心となって、運営する事となった。
2年生となり、生徒会長に就任したロレッタは、副会長に就任したリディアや生徒会役員と共に新生徒会として、生徒会規約を見直し、より良くなるように改定した。
そして、新しい行事の開催や元々の行事の改善。貴族として相応しい人材育成のためのカリキュラムの作成などに尽力し、貴族学園は他国のそれに負けない学園となるのだが、それはまだ、先の話。