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人生を全て売り払って

よろしければご覧ください。

 今日、僕は残りの人生を一年残して売る。いつからか生きている理由も分からなくなった。毎日毎日同じことの繰り返し。起きて、食べて、寝るだけの人生。そんな人生を失うことに誰が悲しく思うか。だから売る。

 

 「お客様の残りの人生は、67年でございました」

 

 人生評価表と記された紙が半円状に切り抜かれたアクリル板の下から、レジで買い物をしたとき、レシートが吐き出されるように目の前に現れた。

 

 「寿命を一年残した買取価格は5億になりますが、本当にお売りになられますか?」

 

 いまさら人生に希望も期待もない。

 

 「はい、よろしくお願いします」

 

 「承知しました。お客様がお売りになられた寿命を、ご購入される方が現れましたら、すぐに追って連絡します。そして寿命売買の契約が成立した日から一週間後にお客様の口座のほうに、代金のほうは振り込まれるようになります。このときに手数料として一割ほどかかることもご了承ください」


 「はい、わかりました」


 そうして僕は店から出た。今日この時をもって余命一年となった。あと一年で、このくだらない人生も終わる。やっとだ。やっと終わる。そのせいなのか、不思議な気分が僕の中から湧き出ているのを感じる。高揚感のような、あのふわっとした感じ。


 もう生きなくていいんだ。好きに生きていいんだ。小中高と恋人も友達もできず、大学に入ってからも同じ道を辿り、そのまま順当に就活にも失敗した。こんな人生何が楽しい。売って正解に決まっている。


 あの日、僕が人生を売ると親に告げたときは、今まで聞いたこともないような声が親の口から発され、やめるように言われた。そして、その次の日から家の外に出してもらえなくなった。だから考えた。親をだましてしまおうと。それからは精力的に生活することにした。朝は6時には起床し、家にいる間は資格の勉強に取り組んだ。夜はもちろん早く寝る。たまに夜更かしすることもポイントだった。そうした健気な努力の甲斐もあり、ここ最近、家の外に出してもらえるようになった。今日はスーパーに買い物に行くと告げて、家から出た。そうしてようやく人生を売ることができた。


 人生の売買が合法化した当初は誰も売ろうとしなかった。買おうとする者はかなりいた。特に老人や病気やケガで、生きているのかすら怪しい状態で、無理やり本人の意思とは関係なく、延命治療を行われている人たちが他人の人生を求めた。初めは人生を売ることに、ためらいを持っていた人が大半であった。そのため街のビルには、人生売りませんか?などといった広告がよく掲示されていた。そう、需要と供給のバランスが崩れていたのだ。だが今、そのバランスは保たれている。なぜか、それは若者が人生を売るようになったのだ。様々な原因はあったと思うが主に、SNSの普及に伴って、人生の成功者といえる者たちが、常に新しいものを買った、多額のお金を使って何かしてみたなど、何も持たない者たちに劣等感を植え付けるようになっていったことが原因だと考えられる。僕もその劣等感を植え付けられたうちの一人でもあるのだが。それにネットに接続すれば、政治家の脱税や、今でこそ大変な暮らしの中で税金が上がるや、そのくせ政治家自身の賃金は自分たちで増やすや、中抜きや、といった情報が常に垂れ流されていた。そうした将来に対しての希望を持つことができないような状況の中で、人生を売ってお金を手に入れ、つまらない人生に少しでも華を添えようと考える若者が増えた。


 こうした若者が自分の人生に失望し、寿命を売る人数が増えている状況に対して大人と呼ばれる人たちの中には、人生はまだまだ長い。君たちが生きている今は辛いかもしれないが、人生においてはほんのわずかな瞬間にしか過ぎない。いつかきっと幸せが来るとか言って踏ん張れ、頑張れとか言う。知るか。お前らは既に経験して、過去の出来事の一部になっているからそう言えるかもしれないが、僕たちは今まさにその、くそみたいな状況の中にいるんだ。頑張れなんて安易な言葉をかけてくるな。偉そうに。思ってもいないことを言われると腹が立ってくる。全部、全部、ゴミのようにしか感じられない。

 

 とりあえずスーパーによってから家に帰ろ。

読んでいただきありがとうございます。また少し続きますのでよろしければご覧ください。

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