ドラムロールのビートにのって、オレは缶コーヒーの中で営業スキルを武器に戦う 010
老紳士の運転する自動車は郊外を超え、次の町に差し掛かっていた。
「この男の誘いに乗ったのは間違いではなかった」
『察知』の技能を発動させている莎等は、姉をさらった人物の発していた、技能の気配が濃くなるのを感じていた。
「その知り合いの医者の家はまだかね」
老紳士は、自分が自動車ではねた、後部座席で横になっている阿蘭の容態が気になっている様子だった。
同じようなレンガ造りの家が道路の両サイドに並ぶ街並みを走っていると、ある家の付近を通り過ぎた後で、探している気配が離れていくのを感じた。
「あの辺りの家だ」
莎等はリアガラスから、今、通り過ぎた辺りの家々の様子を見た。
「どうかしたかね?」
ルームミラーで莎等の様子が見えたらしい、老紳士が尋ねた。
「あの、この辺りで降ろしてもらっていいですか?」
「ああ。医者の家はこの近所かね」
「はい」
老紳士は車を停めた。
それから、阿蘭を降ろすために後部座席のドアを開けた。
「ありがとうございます」
莎等は車から降りると、探している気配の方に走り出した。
「おい、君!」
老紳士は声をあげた。
「久しぶりに来たから、お医者様の家忘れてます。ちょっと探してきます」
そもそも、さらわれた姉を追うのが莎等の目的だった。
協力を申し出てくれた阿蘭には悪いが、時は一刻を争う。
阿蘭のことは不運な老紳士に任せることにして、莎等は暗がりの町を走り続けた。