第七話 小鬼の棲む白塔(11)
小高い丘の上、肌寒さをおぼえるのは透んだ空気のせいだが、それでも陽光さえあたれば柔かい温かさを感じることができる。
キョージュは、熱心に穴を掘っている。この場所が、術師会所轄の墓地公園であると私が知ったのは、ずいぶん後になってからだ。
キョージュの額から汗がしたたる。タオルを渡して、水筒のお茶と缶コーヒーのどちらを渡すか、しばし考える。缶コーヒーがぬるかったので、キョージュに缶コーヒーを差し出した。
「どうもありがとう」キョージュはコーヒーのプルトップを開けて言う「もう少しですから」
キョージュの穴掘りを見ていると、タモンさんが来た。
「やあ、アキハさん」私に挨拶したタモンさんは、持参した紙袋をごそごそやって何か取り出した「はい、これ」
ノーム・イン・ザ・クオーツ。
「どうしたんですか、これ?」
私の問いにタモンさんは、ぼんやりと答えた「んー、知人に呼ばれて世間話してたら、帰りにくれた」
「あ、そ、そうですか」
どんな世間話だか、気になるところだ。
「あ、ちょうど良かった。一緒に埋めちゃいましょう」
リュックから骨壷を取り出したキョージュは、いま掘ったばかりの穴に納め、隣に例の水晶を並べて、上から土をかけた。
約束なので、その辺の花を見繕って植えてあげた。墓標の代わりに、白い石を何個か積み重ねた。
「浩一さんの隣にお父さん埋めたら、浩一さん迷惑じゃないですかね」
「多少は迷惑かもしれませんけど」キョージュが言う「いろいろ誤解もあったみたいだし、まあ、ゆっくり話し合ってもらったほうがいいと思うんですよ」
「キミも少しお養父さんと話し合って欲しいんだけどね」タモンさんが言う「何かというと、ボクのところに来て、愚痴ばかりいうので、迷惑しているんだ」
キョージュは露骨に嫌な顔する「それ、僕のせいじゃ、ありませんよ。僕がいようがいまいが、あの人は愚痴と思い出話ばっかりです」
「年寄りというのは、そういうものだよ」タモンさんはしたり顔で言う「それに、キミが相手してくれれば、少なくとも、ボクのところにはこないわけだからね」
そういわけで、よろしく、そう私に言って、タモンさんは去っていった。どう、よろしく、なのかは、さっぱりわからない。
「でもキョージュ」私は少し落ち着かない「お父さんのほう、広畑卓さんですけど、まだ死んではいないんですよね」
生きているんですよね、とは、さすがに聞けなかった。
「ええ、そうですけど」キョージュが怪訝そうな顔で問い返した「それが何か?」
「あの、その、」ちょっと、しどろもどろになる「そのまま埋めちゃっていいの?」
「え? でも」キョージュは、ちょっとだけ困った顔をした「シュンコウさんが封じたものを勝手に僕が開封するのもなんだし、それに封を解いてすぐ自殺なんかされても、それはそれで困るし」
「いや、それはそうなんですけど」なんだかこっちも、よくわからなくなってきた「そういう意味じゃなくて、死んだ人と生きてる人、一緒に埋めてるじゃないですか。いいのかなあ、と…」
キョージュは腕組みして考えている。何か釈然としない風で、ぶつぶつと呟いた。
「そんなこと言われても…、死んでようが生きてようが、人間に変わりはないじゃないですか。そこまで気にしないといけないものなんですかねえ」
どうもうまく話がかみ合わないし、私のほうでも、じゃあ、どうする、と開きなおられたら、さして良い案があるわけでもない。
いくら花を飾っても、下にいろいろ埋まっていると思うと、なんとなく気持ちが悪い。
「え、と、だから、別のところ行きましょう。何か下に埋まっているところで、お弁当とか嫌だし」
「ああ、そういうこと」キョージュの顔が、ぱぁぁっ、と輝いた「ごめんなさい、気が利かなくて、お弁当はね。あっちの噴水のあるほうがいいですよ。何も埋まってませんから」
キョージュと連れだって丘を降りる。途中一度だけ振り向いてみた。
積み重ねた石が白い塔のように見えた。
おにぎりはおいしかった。卵焼きは少し甘くしすぎたな、と思った。
キョージュはおひたし以外は全部食べた。注意しようかと思ったが、今日ぐらいはいいか、と思った。
<小鬼の棲む白塔 − 了>