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術師たち  作者: 二月三月
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第一話 死者に会う呪術(7)

 

「アキちゃん、お手柄だったみたいだね」詰所に出たらソンコさんがニヤニヤしていた「キョージュの鼻、折ったって?」


 ああ、そっちのほうか。


「ソンコさん、酷いですよ。私を置き去りにして」とりあえず、恨み言を並べてみた。


「だって、しょうがないじゃない。キョージュは一人じゃ仕事にならないんだから」


「ソンコさんが組めばいいじゃないですか」


「キョージュと? 御免だね」


 そう吐き捨てて笑う。取り付くシマもない。


「私だって嫌です」


「嫌でも何でも、いちおう仕事にはなったじゃないか」ソンコさんが真顔で言う「それに五体満足ってのは、アンタが初めてだもの」


「は?」


「あれだけのタマだもの。使わないって手はないからね。今まで何人も組ませたのさ。いや、何十人か…」ソンコさんは、はは、とソッケなく笑う「仕事の方は、うまくいったのも失敗したのもあった。けど、相方は、まぁ、良くて廃人だったからねぇ」


 良くて廃人って、アナタ…。


「悪いと…、死んだ人もいたってこと?」


「死んだのもいたけどさ、それはどっちかって言うと、良いほうだよね」




 間違えたら、死ぬよりヒドイことになりますよ。




 あれは冗談じゃなかったのか。


 ソンコさんは上機嫌だ。


「本部のほうが色めきたっててさ、キョージュが使いモノになりそうだって。あ、たぶん、これから仕事増えると思うんで、ヨロシク」


「お断りします」


「何か言った?」


「お こ と わ り で す」


 ソンコさんは毛ほどもたじろがない。


「そういうの、何だっけ、アキちゃんの意思、とかいうんだっけ。そういうの、ウチ、あんまり関係ないから」


「関係あるとか、ないとか、そんなんじゃない」


 そして小一時間、これはセクハラでパワハラでモラハラであることを現場の具体例を挙げて説明した。もちろん認められなければ、懲戒委員会なり、出るところに出ると。


 ソンコさんはニコニコしながら黙って話を聞いていた。そして、私が喋り疲れて一息ついたところで、言った。


「まあ、言いたいことはわからないでもないんだけどね。出るとこ出るったって、所詮は他人を呪い殺すような稼業やってる連中だからねぇ。期待しないほうがいいんじゃない?」


 私がなおも口を開けて反論しようとすると、ドアのほうを指して言う。


「ほら、無駄口叩いてないで、お呼びがかかってるよ」そして、ペロっと舌を出して可笑しそうに笑った「それにしても、本当にアレの気配、わからないんだ」


 顔の真ん中に絆創膏を貼った男が、詰所の入り口でオイデオイデしている。もちろん嫌だったが、しぶしぶ歩みよった。


「何の用です?」


 キョージュは事務的に答えた。


「手塚さんとの約束の時間がもうすぐなんです」


「それで?」


「車出してください」


「何で、私が?」


「アキハさんは、僕の専属アシスタントになったと聞きました」


「その件は、お断りしました」


 キョージュは顔の真ん中を指差して言う。


「これのせいで眼鏡がかけられないんです。眼鏡がないと運転できません」キョージュは少しだけ高飛車だ「誰のせいでこうなったと思ってるんですか?」


「アナタのせいです」


「あ…、まぁ…、そういう見かたもあるとは思いますけど…」


「タクシー呼びましょうか?」


 キョージュの虚勢もそこまでで、捨てられた子犬のような目でこっちを見つめる。


「手塚さんを奥さんに会わせてあげなければいけないんです。僕だけじゃ、奥さんが来たかどうか、わからないから…。お願いします。一緒に連れてって下さい」


 これ以上拒んだら私が悪者みたいだ。


 ソンコさんのほうを見ると、シッシッ、と追い払うように片手を振る。


 もうヤケだ。


「今度だけですよ。後のことは知りません」


「ありがとう」キョージュはうれしそうに私の後からついて来る。キョージュが詰所のドアを閉めた途端、部屋の中から、けたたましい笑い声が湧き上がった。



 ババア死ね。



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