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術師たち  作者: 二月三月
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第七話 小鬼の棲む白塔(3)

 

「遅いよ。お嬢ちゃん」


「カゲさん、いたんですか」


 霊峰友愛の支部に入った途端、カゲさんが文句を言ってきた「当たり前じゃない、レイカ様だけ残しておくわけにいかないだろ。まったく」


「ごめんなさい」


 カゲさんは笑った「ああ、キョージュに会ったら、お嬢ちゃんのこの間の飲み代は、ぜったい受け取らないから、って言っといて」


 ひっ、顔から血の気が引いた。あの晩のことはまったく記憶が無いのだ「すみません、すみません、それは、私が必ず払いますから」


「ええ〜」カゲさんは口をとがらせた「なんでだよぉ。ウチの店はもうお嬢ちゃんはタダでいいから、って言ったじゃない。また来てよね」


「でも、ぜったい、必ず、払います」


「早く行って」カゲさんは聞く耳を持たない「レイカ様、待ってるよ」


 カゲさんにうながされて入った部屋。レイカ様は巨大な木製のデスクについていた。


「ウチは関係ないわよ」開口一番、レイカ様はおっしゃった。


「もちろん、それは、わかってます」私は即答した「お聞きしたいのは別のことです」


「あら、そう」レイカ様は、フフン、と顎を上げて立ち上がった「まあ、あなたが馬鹿でなくてなによりだわ」デスクを廻り、私の前に立つ「アタクシ馬鹿は嫌いなの」


 褒められた、ということにしておこう「最初にお会いした時です。あのとき、ソンコさんは何をしたんですか?」


「最初に会ったとき?」レイカ様の眉根が上がった「ああ、あのときのこと。何、あなた、ソンコの木霊のこと知らなかったの?」


「はい…」何かバツが悪い気がして、おずおずと返事する。


「内緒にされてたってこと? まあ、あの女の考えそうなことね。あいかわらず姑息だわ」レイカ様は言った「あの女、あなたの未来を覗いてたわ。アタクシの力を使ってね」


「ソンコさんは、私のどんな未来を覗いていたんでしょうか?」


「知らないわ」レイカ様は首をすくめて見せた「未来予知、っていうのは、これでもなかなか骨が折れるものなのよ。たまたま予知能力を持っていたとしても、まず普通は未確定の未来と確定した未来の区別がつかないわ」


「未確定、と、確定?」はじめて聞いた


「そうよ」レイカ様はとくとくと語る「未確定の未来に振り回されて、本当の確定した未来を見逃してしまう。ソンコは時々、アタクシの力を勝手に使うけど、そうそう練習できるものじゃないから、いいところ、何かの答えを得る、ぐらいでしょうね」


「何かの答えを得る?」


「託宣よ」


「託宣?」


「あらかじめ想定した問いに、イエスかノーかで答える」レイカ様はちょっとだけ口元を歪めて、笑った「まあ、そのくらいが関の山ね」


「じゃあ、今回の件が起こることを、やっぱり、ソンコさんは知らなかったんですね」


「ああ、あなた、そんなこと考えてたの」レイカ様は、ほほ、と笑った「今回の件を予知できるのは、アタクシぐらいのものよ。ま、いろいろと頭をめぐらすのは悪いことじゃないとは思うけど」


「ショミちゃんは、どこにいるんでしょうか?」


「ソンコの娘がどこにいるかなんて、アタクシは知らなくてよ」レイカ様は、それについては、まるきり興味なさそうに言った「そういうのが得意なのは、あの子のほうでしょう? まあ、母親ほど馬鹿じゃないみたいだし、あの子なら自分のことは自分で探すでしょう」


「自分で探す?」


「お行きなさい」レイカ様は、もうおしまい、という顔で会話を打ち切った「もう必要なことは話したわ。あの夫婦がおかしなことを始めたのだから、手遅れにならないうちに早くなさい。とばっちりは御免だわ」


「あの…、レイカ様…」帰りしな、レイカ様に声をかけた。


「何?」


「玄関前にキョージュ待たせてあるんですけど…」


「え? ダーリンが」レイカ様、あきらかに動揺している「そ、それが、どうかして?」


「いや、車の中にいるんで、もう帰られるんでしたら、すれ違ったりするのかなぁ、とか」


「そ、そんなの、あたりまえでしょう」レイカ様の頬が真っ赤になった「出入口はあそこだけなんだから、あなたたちがぐずぐずしてたら、横通るのは普通じゃない。そこしか道はないんだから」


 カゲさんに、さよなら、を言って車に乗り込んだ。ルームランプを点ける。


「用はすみましたか?」


「まあ、すんだような、すまないような」キョージュの問いに答える「レイカ様は、ショミちゃんなら自分のことは自分で探すはず、だとか言われるし…」


「それだっ」キョージュがいきなり叫んだ「それですよ。ショミさんは探してるハズです」


「探すって何を?」


「何でもです」キョージュは嬉々として説明する「だって考えてみてください。ショミさんの失物探しはものすごく強力なんです。あまりに強力過ぎて、探している相手に気どられずに探すなんてことはできないくらいです」


「そりゃそうだけど」


「アキハさん、何か感じません?」


「え?」


「いつもと違う感じが、しませんか?」


 言われてみると、さっきから何か特定の方向に引っ張られるような感覚が「あっちに引っ張られてる感じがする」


 私の指さす方向にキョージュが向いた「北ですね。ショミさんは北にいます」


「ショミちゃんが私を探しているんですね」レイカ様の言ったのは、そういうことか。ありがとう、レイカ様。


 見ると、玄関のドアが細く開いていて、その後ろにほっそりとした人影が見える。


「キョージュ、玄関に向かって挨拶して」


「え? 何で?」


「いいから、するの」


 キョージュが玄関に手を振ってお辞儀すると、いきなりドアが、バタン、と閉まった。


「さ、キョージュ行きますよ」


 とりあえず、方角だけはわかった。この先どうなるかわからないが、とにかく北に行ってみよう。



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