第七話 小鬼の棲む白塔(2)
「で、どこに行けばいいんですか?」
助手席に座ったキョージュに行き先を問う。
「いや、どこと言われても」キョージュが腑抜けた答えを返す「勢いで出てきちゃったもので、まだアテはないんですが」
「はあ?」車内は寒い。エアコンの出力をMAXにする。
「ほらあ、タモンさんとソンコさんが、術使っちゃたじゃないですか」キョージュは、これで言い訳しているつもりらしい「なんとなく、あの場に居づらくて。後は頼むって言われちゃったし」
何が、ほらあ、だよ。この抜け作が「あの二人、いったい何したんですか?」
「タモンさんの能力ですよ」キョージュは、さも、当然のように言う「一言主です。実際に見るのは本当に久しぶりで」
「何ですか、一言主って?」
「え? 知らないんですか?」キョージュが驚いて問い返す。知らないよ、タモンさんの能力なんて。
「言ったことが、何でもそのとおりになるんですよ」
なにい? まじまじとキョージュの顔を見返す。何を言ってるんだ、コイツ。そんな都合の良い力なんてあってたまるかよ。
「いや、まあ、初めて聞いたのなら、疑う気持ちもわからないではないですが」オマエが言ってるから、なおさら嘘にしか聞こえないんだが「僕も詳細は知りませんし、いろいろ制限はあるみたいなんだけど、タモンさんがあの力を使ったときは、いままで全部、タモンさんの言ったとおりになってます」
「何でも?」
「何でも」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「マジで?」
「マジで」
まあ、キョージュが言うんだし、そうだと言うんなら、そうなんだろう。
すると、タモンさんが、ショミが元気に帰ってくる、と言った以上はショミは無事ということか?
「それが、本当なら、ショミちゃんは無事に帰ってくるんでしょ、私たちが慌てて出ていくことないじゃないですか?」
「いや、それが…」キョージュは言葉をにごす「ショミさんについては、そのとおりなんですが…、と言うか、そこがタモンさんの力の厄介なところなんですけど、ショミさんの無事は確定しましたが、それ以外がどうなるかはわからないんですよ。あの力は」
「当たり前でしょ」
「それが当たり前じゃないんです」キョージュの声のトーンがあがる「たとえばですよ。あくまで、たとえばの話ですが、ショミさんを拐ったのがどこかの国の諜報機関だったとして…」
「何ですか、そりゃ?」
「あくまで、たとえばの話です」キョージュはもどかしそうに唇を噛む「それで、その諜報機関の工作員がショミさんに危害を加えようとした場合、その国自体が無くなります」
はあ?
何言ってるんだ、こいつは?
「国が無くなるって、どういうことです?」
「文字どおり、無くなります」
「じゃあ、その国がアメリカだとしたら」こっちもイライラしてきたので、ついつい口調もつっけんどんになる「アメリカが無くなるわけ?」
「そうです」
「もういっかい聞くけど」あまりに平然とキョージュが返すので、こっちがキレそうだ「神様がショミちゃん消そうとしたら、先に神様が消されちゃうとか、そういうことですか?」
「そのとおりです」
「…」
「いやあ、アキハさんが、物分かりよくて、良かったです」
勘弁してくれよ。タモンさんて、そんな、とんでもない人だったの?
「じゃあ、私たちがしなければならないことっていうのは」なんかもう、どうでもよくなってきた「ショミちゃんから、ショミちゃんに危害を加えようとする相手を守る、いや、そうじゃないか、ショミちゃんに誰にも手出しさせないようにする、相手が危険だから、そういうことですか?」
「はい、そういうことです」キョージュはうれしそうに答える「もう、一言主が発動しちゃってるんで、急がなきゃいけないんですけど。タモンさんもソンコさんも術の反動で、ショミさんが帰ってくるまで動けないから、他の人がなんとかしないといけないんですよ」
「ソンコさんも、なの?」タモンさんのほうは、嫌々ながらも納得したが、ソンコさんのほうがよくわからない「ソンコさんも一言主なの?」
「彼女は木霊です」キョージュが答えた「ソンコさんは他人が使った能力を、その場で、そのまま使えます。だから今回は一言主の重ねがけで間違いないです」
「ねえ、キョージュ」もう毒気を抜かれたので、問いかけも我ながらおとなしい「さっきの、アメリカがなくなる、って、ただのたとえ話ですよね」
「ええ、まあ、そうですけど」キョージュはちょっと困った顔した「以前の例から考えると、あながち誇張でもないような…」
「何人も死んだ、とか…」
キョージュは首を振る。
ああ、良かった「じゃあ、死人が出たとかではないんですね」
キョージュは首を降り続ける。表情が暗い。
「え? じゃあ」嫌な感じがする「何百人とか…、もしかして…、何千人?」
「…」
「何万…」
「残念ですが」キョージュが言った「まだ桁が違います」
アクセルを踏んで車を出す。
「アキハさん」キョージュが問うた「何かあてでもあるんですか?」
「あてって、ほどじゃないけど」私は答えた「霊峰友愛、関東支部に行ってみます」
「レイカさんは、この件、たぶん関係ないですよ」
「私もそう思います」まあ、レイカ様、ってことはありえないよね「でも、確かめたいことがあるんです」
時刻は午前十一時、普通なら支部のオフィスにレイカ様のいる時間ではない。
けれど、私には、レイカ様が絶対にそこにいるという確信があった。