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術師たち  作者: 二月三月
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第六話 風に乗る封神(10)


「いっただきまーす」


 今回もショミにはずいぶん世話になったので、ご褒美はタカノフルーツパーラーのスペシャルパフェということになった。


 ショミはマンゴーパフェを、私は定番の苺パフェを頼んだ。


 当然、払いはキョージュである。


「結局、シュンコウさんは風神に何をしに行ったんですか?」興味があったのでキョージュに問うてみた。


「何をしに? と言われてもですね」キョージュが珍しく困っている「風神を封じることなんかできないわけですからねえ。本人に聞くしかないんじゃないですか?」


「聞いたけど、誤魔化して答えてくれないんですよ」やっと苺を半分平らげ、ブリュレまでスプーンが通るようになった「穢れの状態も、家出たときと変わってなかったし」


「練習だよ」ショミがスプーンを口に運ぶのを止めて答えた。


「練習?」


「そ」ショミはすでにマンゴーをあらかた食べつくしている「神か、それに似たようなものを封じる練習。十分に力が使えない状態で練習しに行ったんだと思う」


 私とキョージュは顔を見合わせた。


「何でそんな、力を制限して練習しに行くのよ」ショミに問うてみた。


「だって、間違って封じたら困るんじゃないの?」ショミは、スプーンで器用に、パフェグラスの壁からクリームをはぎ取っていく「封じるのは大変だけど、封を解くのだって大変なんでしょ。もともと風神を封じる必要はないわけだし」


「まるで、シュンコウさんの体調が万全なら神を封じられる、みたいに聞こえるんだけど」


「そこまでは知らないよ」


「そんなことできるものなの? キョージュは?」今度はキョージュに問うた。


「僕がですか?」キョージュは驚いて首を振る「神を封じるなんて、そんなことできませんよ。もともと封じるのは苦手だし…、僕ができるのは、せいぜい、消す、ぐらいですね」


 神様消す、って、そっちのほうが物騒じゃないか?


「じゃあ、失敗して、風神に飛ばされた、と?」


「失敗したと言うより」キョージュが答える「何かする前に、向こうから先に飛ばされた、というところでしょうね。風神にしたら、シュンコウさんに憑いている穢れを吹きとばしただけだと思うんですよ。実際、少し穢れを削ぎ落としただけで落ちてきましたからね」


「飛ばされたのは穢れのほうで、シュンコウさんはおまけ、ってこと?」


「それに近い感じだと思うよ」ショミの口から出てくるスプーンにはクリームがまったくついていない。ピカピカである「たぶん、風神は、人間飛ばしたと思ってないよ。知らなきゃ、とても人間には見えないしね」


 シュンコウさん、散々な言われようである。


「シュンコウさんのことはもういいじゃないですか」キョージュはハーブティーに口をつけ、カップをテーブルに戻した「もっと楽しい話しましょうよ」


「楽しい話?」


「ほら神峰山までのドライブとか」キョージュがニコニコしながら言う「楽しかったですよねえ」


 いや、それほどでも「まあ、天気は良かったですね」


「また、どこかに行きません? 今度は夜景のきれいなところとか」


「あの車狭いし」


「え?」


「窮屈だと思いません? 長い間乗ってると」キョージュの顔をマジ見して言う「ドライブなら、もっと大きい車がいいなー」


「はあ…」


 ショミが、ふふ、と鼻で笑っている「苺もおいしそうだな〜」ショミは空になったパフェグラスを持ち上げた「ね、おかわりしていい? 次は苺で」




 それから十日ほどたって、キョージュの家に行くと、ガレージに見慣れない銀色の車があった。


 シェルビー・コブラ。


 確かに大きい車が良いっていったけど、広い車って意味だぞ、エンジンでかくしてどうするんだよ。しかも2シーター。


 たぶん私が、うん、って言うまでドライブ誘ってくるんだろうな。


 光輝くシルバーボディを見ながら、憂鬱になった。



<風に乗る封神 − 了>




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