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術師たち  作者: 二月三月
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第六話 風に乗る封神(1)

  

「あれ? アキ?」


「シュンコウさん?」


 呼び鈴に応じてドアを開けたら、立っていたのは顔見知りだった。


「何でいるの?」


「何でいるの?」


 異口同音に問うた私たちは、キョージュの家の玄関でしばし固まっていた。


 シュンコウさんは、私とサンタの元上司である。別の詰所にいたときにシュンコウさんが所長だったのだ。


 サンタは詰所を出てキョージュと組み、私はソンコさんの詰所に移った。その後、以前の詰所は統廃合されて、シュンコウさん自身は地方を巡って土地神を封じていると聞いていた。


 ひさしぶりに会ったシュンコウさんは、ざんばら髪に鈴懸を羽織っただけという出立だった。せめて手甲脚絆に頭襟でも被っていれば、少しは山伏っぽく見えるのに、これでは行き倒れか何かにしか見えないではないか。


「別にいいんだよ。素人には区別つかないし、それなりに見えてれば」


 だから、それなりに見えてないってば。


 術師会の用意するホテルは居心地が悪いから、本部によるときは、だいたいキョージュの家に止まることにしてる、んだそうだ。シュンコウさんにとっての居心地の良し悪しというのは、ようするに、酒があるかどうかだけなのだが。


「それにしても」シュンコウさんは言う「キョージュの家に来て、アキが出てきたときは驚いたよ。キョージュの嫁になったのかと思った」


 ちょうど大根を切っていたので、出刃の切先をシュンコウさんに向けた。シュンコウさんの顔から笑みが消える。こういうことについては、私はいつだって本気だ。


「オキャクサン、コニチワ」


 シモンが来た。シュンコウさんにお辞儀している。


「おおお、外人だあ」


「シモンです。シュンコウさん」礼には礼をつくせよ。あいかわらず恥ずかしいヤツだ「ヴァチカンから来たの」


「へええ、よろしく、シモン」シュンコウさんが右手を出し、シモンが応じて握手した。


「シュンコウさん、シモン、晩ご飯は、鯖の味噌煮とけんちん汁で良い?」


「サバ、スキ、オイシイ」


「いいよー、何でも。先に風呂もらうわ」


 はーい、と返事して大根の皮を剥いていると、リビングから悲鳴が上がった。


 何事か、と飛び出してみると、シモンが部屋の隅で丸くなって震えている。


 シュンコウさんは鈴懸を脱いで、すっぽんぽんだ。無駄にでかい乳と尻を隠そうともせず、リビングの真ん中で仁王立ちしている。


「どうしたんだ? あの外人」


「脱ぐんなら脱衣所行ってからにしてください」またか、この女。恥じらいのハの字もない「ヴァチカンから来たって言ったでしょ。カトリックの修道士には目の毒なの」


「え〜、いまどき、いくらカトリックだって、そんなのあるかよ」


「あるから怯えてるんでしょう、可哀想に」シモンのそばによって優しくなだめる「大丈夫、あまり害はないから」

 この女、無駄に背は高いし、それなりに筋肉もあり、しかも風体が風体だけに、初対面だとまず女性には見えない。性格はガサツの見本のようなものなので、この手のトラブルは以前から日常茶飯事だった。


「へへー、でもまあ、逆に言えば、まだまだイケる、ってことか?」乳を両手で寄せ上げて、おかしなポーズをとったりしている。なまじ顔が整っているだけに、かえって始末が悪い。


「いいから、パンツ履くか、風呂場行くか、どっちかにしろ」


 へいへい、と返事して、シュンコウさんは、当然の如く、パンツは履かずに風呂場に向かった。


 さて、どうしたものか。


 リビングに脱ぎ散らかされた衣服を片付けながら考える。この女もそうだが、術師会っていうのは、性格に問題ありすぎるヤツばかりなのは何故なんだ?


 風呂場から、鼻唄が聞こえてくる。その声音に、びくっ、と、シモンが震える。


「アノヒト、コワイ」


「もう大丈夫だよ」災難だったねぇ、シモン。女性恐怖症とかにならなきゃよいけど。


「ダイジョウブナイ」シモンは首を振り続ける「アノヒト、ハンブンナイヨ」


「半分、無い?」


「ナイヨ、ハンブン」シモンは私の左手を指さす「コッチ、ハンブンナイ」


 ああ、なるほど。


 シモンは別にシュンコウさんの裸に驚いたわけではないようだった。


 シュンコウさんのような封じ手は、封印を続けるとどうしても穢れが溜ってくる。それをときどき祓ってやるのだが、ずぼらなシュンコウさんは、あまり祓いをしたがらない。いまも首下の左半身が穢れで覆いつくされており、それがシモンには左半分が無いように見えたのだろう。こっちは慣れっこだったので、そこまで気が回らなかった。


「大丈夫だよ。シモン、シュンコウさんはお祓いに来たんだ。えーとキリスト教だとなんて言うんだ? 洗礼?」


「センレイ? バッテシモ?」


「うん、なんかそんなヤツ?」


「ソウ、アラウ? アノヒト、アラウ?」


「そうだ、洗うんだ。洗えばきれいになるよ」


「オフロデ、アラウ? キレイニナル」


 シモンはやっと落ち着いたようだ。でも、あの穢れは風呂くらいじゃどうにもならないしなあ。シモンに説明するのも難しい。早くキョージュ帰ってこないかな。



アキハとサンタの元上司だったシュンコウがキョージュの家に現れた。地方の土地神を封印しているシュンコウは自身の大祓をキョージュに頼みに来たのだ。穢れが偏っているので祓いにくいとキョージュに言われたシュンコウは、それならバランス良く穢れをつけよう、と言い出して…


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