第五話 精霊が降る聖夜(7)
「ぁぁぁぁぁああああああ」
八条の光が私の胸から唸り伸び、何かが心臓の真上で開いた。
サッカーボール大の光の玉が胸からのぞく。
「っひ、っひっっひぅ」
こちらを伺うように、一度、二度、膨潤と収縮を繰り返しつつ明滅する。
「ぃぃぃゃぁあ、いゃあぁぁ」
私の胸から、ボーリングのボールを連ねたような光の数珠が繰り出され、昇天する龍のごとくにとぐろを巻いて部屋の中を駆け巡る。
「いひっ、ひっ、やああああああ」
光の数珠のうちのひとつが切り離され、ゆっくりと床に届くとシモンに寄り添った。
光の玉は、堰を切ったように胸から湧き出る。もう一個ずつ順番になどという体裁もかなぐり捨て、ポップコーンが弾け膨らむように、強烈な光が私の胸の上から踊り出てくる。
「っぐ、ひぐっ、っう、っう」
歯の根があわない。涙が湧いてこぼれそうだ。
部屋の一角には青白い光をまとった三人家族がいて、この有様に見惚れている。
「あれぇ? おかしいな」
「どしたの? パパ?」
「うん、キョージュがね。カトリックの聖人全員呼ぶ、って言ってたから、最初は冗談だと思ってたんだけど…」
「冗談…、じゃ、ないの?」
「カケモチしている人もいるし、手の空いてない人もいるはずだから、まあ、全員、ってことはないだろうけど…、ほとんど全部じゃない? これ」
「おーい」タモンさんは笑いながら、キョージュに問いかける「どうやったら、こんなことできるんだい?」
「いま忙しいから、あとで」キョージュはにべもない。天叢雲剣は中段くらいまで切先が落ちている「だいたい、師匠が弟子に質問なんかしないでください」
「だって不思議なんだもん」タモンさんは本当に楽しそうだ「教えてくれたっていいじゃない、キミは意外とケチなんだな」
「教えたら、タモンさん、このあとやってくれますか?」
「まさか」と、タモンさん「こんな馬鹿げたこと、ボクなら、頼まれたってやらないよ」
「僕だって、やりたくてやってるわけじゃ、ありません」
「え? そうなの?」
「あの…、すいませんけど、少し黙っててくれますか…」
光の洪水、としか言いようのない状況の中、眼前で奇跡のように光が割れた。
両脇に光の断崖をつきしたがえ、深遠へと続く無光の道を、一個の光球が緩やかに回転しながら近づいてくる。
「え? えぇ?」
光球は私の眼前で静止した。
どこからともなく、何かよくわからない音が聞こえてくる。
調子を変え、ときどき外国語のようにも聞こえる。断続的に光球は語りつづけ、何かを伝えようとするかのように淡く明滅した。
もやもやとした音とも言葉ともつかないものが、頭の中を流れつづける。それが、突然、クリアな音声になった。
「お目にかかれて光栄です」
あまりに普通の日本語だったので、驚くより先に返答してしまった。
「ど…、どういたし、まして、こちらこそ」
光球は満足気に光を膨らませ、それと同時に部屋中の光が大音響で合唱する。
賛美歌、だろうか。楽曲というには、あまりに音量が大きすぎ、ただ体がその震えを感じられるだけだ。
やがて音は止んで、すべての光が満足したように明滅を止めた。
「は? ぁは?」
光は粛々と燐きを鎮め、私の胸へと吸い込まれていく。
「ぃ、ぃ、ぃ」
最後にシモンの傍らの光球が、名残惜しそうにシモンの体を一巻すると、胸のロザリオに帰った。
キョージュは剣を大上段に、また気絶している。
三人親子は、パチパチと拍手していた。
磔刑台から降ろしてくれたのはシモンだった。
「アリガト、アキハさん、ホント、アリガト」
シモンの眼にはうっすら涙が浮かんでいた。どう返答したものか迷った私は、さっきの光球に言ったのと同じ言葉を繰り返した。
「ど…、どういたし、まして、こちらこそ」




