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術師たち  作者: 二月三月
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第五話 精霊が降る聖夜(1)

 

「そういうことで」と、ソンコさんは言う「カガミの件はこれでおしまい」


 本当におしまいでいいんですか? と問うて見たところ、だってしょうがないじゃない、と返された。


「ザラスシュトラの鏡は破器完了だし、アワセカガミも壊れちゃったし」


「ザラスシュトラはともかく、アワセさんのほうはもう少ししたらなんとかなるんじゃないですか?」


「無理でしょ」と、ソンコさんはそっけない「キョージュの仕事場にいて、無事ですむわけないもの」


「アワセさん、一般人でしょ? キョージュの力って普通の人に影響ないのでは?」


「普通じゃないもの。アワセカガミは、術師くずれ」


「インチキ占い、って言ってたじゃないですか」


「占いはインチキだよ」ソンコさんが口をとがらす「アワセの能力は、操神、だもの」


「へ?」


「操神、精神をあやつるの、マインドコントロール。だから占いはインチキでも、占ってもらった人はお金ガバガバだすわけ。もっとも、そんなことしてたから力はどんどん失われてたわけで、最近はほとんど無能力者に近かったんじゃないかな。それに鏡にもだいぶ吸われただろうし。だから逆にあの程度ですんだとも言えるけど」


「じゃあ、ザラスシュトラの鏡を調べてみたらどうです?」


「もう、破器されてるしなぁ」このオバサン、まるでやる気が感じられない「ウチの仕事としては終わってるんだよね。調べようにも手元にないし」


「ヴァチカンが持って帰ったんですか?」


「まさか。むこうでも用済みでしょ。霊峰友愛にあるよ」


「え? 置きっぱなしなの? あのまま?」


「だって、あんな重たいものどうしろっていうのよ?」


 これ以上の会話は不毛と判断し、私はしゃべるのをやめた。


「あ、心配いらないのよ、アキちゃん。仕事はたくさんあるからね。ほら、これなんかどう? 立て続けに親戚が八人死んじゃって何かの呪いじゃないかって依頼人が…」


 その依頼人を逮捕するように警察に言ってください。しゃべり続けるソンコさんを残して、詰所のドアを閉めた。



 秋の風が冷たい。


 コートの襟を立てて舗道を歩く。もうすっかり陽も暮れて、街行く人は皆、物憂げだ。


 トリック・オア・トリートなどと呟いてみたが、誰がお菓子をくれるわけでもない。


「あら、アナタ」


 声のほうを向いて驚いた。


 黒貂のロングコート、おそらくフェイクではない、に身を包んだ婦人、しかも縦ロール。


 レイカ様だ。


「何しているの? こんなところで」


 突然のことに声も出せずにいると、レイカ様が続けて問うた。


「暇なの?」


 こくこくと頷く。


「そう、それならちょうどいいわ」レイカ様はくるりと踵を返す「ついてらっしゃい、飲みにいくわよ」


 え? え? え?


 5歩、歩いたところでレイカ様が振り返る「何しているの? 来ないのなら、置いていくわよ」


 レイカ様の片眉があがっている。これはマズイ。


 一も二も無くレイカ様を追って走り出す。


「急にどうされたんですか?」


「新装開店で呼ばれたのよ。一人じゃ馬鹿みたいだし、行く気はなかったんだけど。お供でもいるのなら、まあ良いかしら、と思って」レイカ様は私の首から下へ視線を滑らす「地味だけど、まあ、それなりの格好してるし、ドレスコードにはひっかからないでしょう」


 え? ドレスコード?


 スーツじゃなくてワンピだったのが良かったのかな。低いけどヒールで良かった。


「ここよ、ここの地下」


 一瞬、立ち止まったかに見えたレイカ様は、そのまま狭い階段を降りていく。


 階段の前には手製のウェルカムボードがあった。さっと目を通して愕然とする。


「ちょ、ちょっと、レイカ様」入口のドアに手をかけんとするレイカ様を押しとどめる。


「どうかして?」


「どうかして? って、ここホストクラブじゃないですか」


「そうだけど、だからどうしたの?」


「私、こんなトコ入ったことありません」


「あら、そう、良かったじゃない。お店も新装開店だし、アナタも初めてなら、初めて同士でぴったりね」


 レイカ様がドアを開けると、まばゆいばかりのシャンデリアの燐きと、野太いくせに上ずった、いらっしゃいませ、の連呼が私を襲った。



術師たち(表)シリーズ第五作目です。

形式的に第四話と続きの話になっています。というか、もともとひとつの話だったのが、長くなりすぎたので二つに分割したというのが、真相です。前話が尻切れトンボと言われてもしょうがないですね。トホホ。


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