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術師たち  作者: 二月三月
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第一話 死者に会う呪術(4)

 

「やっほー」


 ソンコさんが門の前に横付けした軽のマドから手を降っている。


 軽から降りる気はなさそうだ。


 アイツが窓越しにボストンバッグを二個受け取っている。チラチラこちらに視線を送るが、手伝う気などない。


 荷物を降ろしたところで、依頼主の手塚さんも乗るらしい。どこでどう話をつけたものか、安全確保ということだろう。


 助手席に入ろうとしたら何故か押し戻される。


「アキちゃんは、だ〜メ」


「どうしてですか?」


 あんな訳のわからない手のミイラと一緒にいるわけにはいかない。帰らせてもらう。後のことはアイツにやらせればいい。


 しかし、ソンコさんは私を押し出してドアを閉めてしまった。


「アキちゃんが帰ったら、キョージュが困るでしょ。あの子、見えないんだから」


 キョージュというのはアイツのことか?


 ソンコさんは窓越しにアイツを呼ぶと耳許で何か囁いている。


「え? ダメ? 京都も? 和歌山も?」


 ソンコさんは口に人差指を当て、しかめっ顔をする。もう遅いよ。


「忙しいんだってさ」


「じゃあ、どうしろと?」


「勝手にしろってことじゃないの? じゃ、あとはヨロシクね〜」


 軽にはありえないスタートダッシュで、ソンコさんは行ってしまった。最初の四辻を曲がったのは、たぶん、わざとだ。


「やっと二人きりになれましたねぇ」


「警察呼びますよ」


 鳩が豆鉄砲の顔をそのまま続けているので、無言で振り向き門を出る。




 がくん、と膝が落ち、たまらずにしゃがみこんだ。




 地面に両手を着いても頭を支えるがやっとだ。嫌な汗が全身からふき出る。ここに来る前に喰らった波動の比ではない。当たり前だ。それだけモノが近いのだ。


 忘れていた。


 いままではアイツが私を守っていたのだ。手を抜かれたらこのザマだ。


 アイツの顔が目の前に来た。道のど真中で膝を抱えこんで座り、私の顔を覗き込んでいる。顔を背けようとしたが、それすらままならない。


「あなたの力が必要なので、出来れば手を貸していただきたいんですが」


「イ ヤ で す」


 返事に動じる風もなくアイツは淡々と話しつづける。


「どうする気なんです?」


「カ エ シ テ」


「お送りしたいのは山々なんですけど、アレを残したままこの場を離れる訳にもいかないし、応援が来るまででいいですから、ご一緒願えませんか?」


「ヒ キ ョ ウ モ ノ」


 いまだかつて経験したことのない巨大な重力に屈し、頭がかくっと落ちた。


 それを肯定と受け取ったのか、その瞬間、全ての枷から解き放たれた。


 肩で息をする私に差し延べられた手を拒んだ。たとえそれしか方法がなくても絶対に嫌だ。


「あなた一人でやれば? こんなに力があるんだから。私なんか足手まといじゃない」


「そうはいかないんですよ」男は本当に困っているらしかった。「ソンコさんも言ってたでしょう。僕、見えないんです」


「見えないって、何が」


「あなたの見えてるモノがです。見えないし、聞こえないし、感じない」


 驚いて顔を上げた。私の目の前いる男は、本当に途方に暮れている。


 そんなバカな。


 これだけの霊障を眉ひとつ動かさずに中和しているのに、そんな力があるのに、何も見えてない?


 まさか、あの箱の中身にもまったく感じない? だから、あれほど頓着無く蓋を開けた?


 ありえない。


「目をつぶって耳を塞いだままピストル撃つ訳にはいかないんです。だから、僕が仕事するときには見える人の助けがいるんです


 立ち上がろうとしない私の傍によって、男はなおも懇願する。


「お願いします。…とりあえずは、と言ったら失礼かもしれませんが… アキハさんしかいないんです。本当に、お願いします」


 あるいは、この人もそれほど悪い人では無いのかもしれない。おそろしく不器用そうではあるけれど。


「あの…、往来の真中ではなんですから、家に入りましょう。ちゃんと説明しますから、ね。大丈夫です。恐いことありませんから」


 気がついたら、子供のように泣きじゃくっていた。キョージュに促され、私は家に入った。



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