第四話 真実を映す魔鏡(4)
たらいのように巨大な黒曜石の灰皿をキョージュは鏡と呼んだ。水を張って水鏡として使うんだそうだ。サンタの店に持っていくというのでキョージュに運ばせた。こんな重そうなものを持つのは私の仕事ではない。
「そういうの世間では泥棒って言うんですよ」
「爆発物処理班が未処理の爆弾を持ち帰っても泥棒にはなりません」
このクラスの呪物は放置すると危険だから安全な場所に保管するんです、とキョージュは言うのだが、どう考えても胡散臭い。
だいたい、サンタの店が安全かどうか、という点だけとっても、はなはだ疑問だと思う。
キョージュは、カウンターの奥、金庫みたいなキャビネットに水盤を納めると、サンタによろしく、と言い残して帰ってしまった。
よろしく、と言うまで私は帰れないらしい。
サンタはキョージュがいなくなって一分もたたずに現れた。この二人、どこかで連絡取ってるんじゃないかと勘ぐりたくなりほどのタイミングだ。
よろしく、と言って帰ろうとしたのだが、どうせヒマなんだろ、と引き留められた。
「ザラスシュトラの鏡ねぇ」サンタは呆れ顔だ「よりによって、とんでもないモノ持ち込んでくるなぁ」
「知ってるの?」
「知らないわけないでしょ。実物見たのは初めてだけどサ。キョージュ何て言ってた?」
「だから、サンタによろしく、って」
あいかわらずだなぁ、キョージュ、とサンタがぼやく。サンタはいつだってこんなモノだが、それにしたってかなり不満げだ。
「そんなにヤバいモンなの?」
「モノはそこそこだけど、付録がね」問われたサンタが答える。
「付録?」
「ヴァチカンに長いことあったから、むこうの持ち物だって思ってる奴らがいてしつこい」
「何でヴァチカンなのよ? キリスト教じゃなくてゾロアスター教でしょ」
「知らないよ。十字軍か誰かがかっぱらってきたんじゃないの?」サンタはぶつくさ言う「キョージュ…、いくら昔ヴァチカンと悶着起こしたからって、こっちに押し付けられても困るんだけどなぁ」
「悶着、って、キョージュ何やったのよ」うっかり問うてしまった。
「別に…、たいしたことじゃないけど、昔、ヴァチカンに留学してたころに」
「留学、って? キョージュが?」
「そう、その留学当時、いろいろあって、ヴァチカンのエクソシストグループ、半壊させちゃった」
「はあ…」
「キョージュの仕事の最中に、エクソシスト退避させなかった向こうが悪いんだけどさ。まあ、間近で見るまで信じられなかった、ってのはあるんだろうけどね」
「あのさ…」前々から疑問に思っていたのだが、いい機会なので問うてみた「キョージュ、ってそんなにスゴいの?」
「まあ、凄いっていうのかなんていうのか」サンタは少し躊躇しているようだったが、カウンターに片肘をついて話しだした「魂魄は知ってる?」
「うん」
「魂は天に魄は地に、ってヤツね。で、キョージュの能力ってのは実は至極単純で、圧倒的な魂の力で魄を消すだけなんだ」
「ああ、それで呪物や場の魄を消しちゃうのね」
「そうそう、で、呪物や場ならいいんだけどさ。人の場合はちょっと困る」
「人の魄も消しちゃう?」
「そ、でも普通の人は魄なんかなくなっても平気なわけ、別に何に使う訳でもないし、生きてればそのうち回復するしね。でも術師の能力は魄に大きく依存してるので」
「あ、わかった。キョージュが力を開放するとそばにいる能力者は能力無くなって、普通の人になるんだ」
「それぐらいですめばいいけどね」サンタはフッと小さく笑った「魂と魄は絡み合ってるから。もともと能力者ってのは不自然に魄を肥大させてるんだ。それが力の源でもあるけど。バランスが歪なところにその魄が突然無くなったら…」
意味ありげに言葉を止めたサンタに、それで? と続きをうながした。
「運が良ければ精神に異常をきたす程度ですむし、普通は死んじゃうよねぇ。術師の能力が高いほどダメージはでかい。運が悪ければ、俺みたいになるのもいるだろうし」
「俺みたいに、って、サンタ、どっか悪いの?」
この問いに、サンタはきょとんとした顔で私を見返す。ちょっと笑って、アキ姉さんらしいね、と言った。
「ま、隠すほどのことでもないしなぁ」サンタはカウンターを出て、ふらふらと歩きだす。店の入口で振り返り、私に言った「説明するから、ついといで」