第四話 真実を映す魔鏡(1)
−−鏡よ、鏡。世界でいちばん、私を愛しているのは、だあれ?
鏡を探すのが、今度の仕事、とソンコさんは言った。
そんな漠然とした話では進めようがない。
「どんな鏡かもわからないんじゃ、探しようがありませんが」
「詳しくは、依頼人に聞いて」ソンコさんが言う。
「依頼人、て誰?」
「阿波瀬加賀美」
「ああ」
その駄洒落みたいな名は知っている。人気の占い師だ。しかも御丁寧に鏡占いである。
「占い師なら自分で探させればいいじゃないですか」
「無理だよ」
「何で?」
「インチキ占いだもん」ソンコさんはもう手を振っている「じゃ、アキちゃん、がんばってね〜。あ、それと」ソンコさんはキョージュの方を向いた。瞳がスッと小さくなり、三白眼でキョージュを睨む「わかってるとは思うけど、仕事が探し物だからって、ウチの娘にちょっかい出さないように」
「そうはいきませんね」キョージュはひるむ気配すらない「この仕事、本部通ってるんでしょう? そうしたら僕の師匠の目に止まらないハズはないし、わざわざこの詰所に話を持ってきたんだから、ショミさんのことは暗黙の了解だと思ってましたけど?」
「あの人のことは言わないで」ソンコさんは金切り声を上げた「それとこれとは話が別です」
「それなら、僕が直接、タモンさんに確認しますから」
「そんなことしなくていい」絶叫したソンコさんは目の焦点があっていない「…あの人はあの子に甘すぎるのよ。いくらあたしが厳しく躾けてもすぐに甘やかすし、…だいたい、最近、本部にこもりっきりで詰所にも顔を出さないし、たまに本部に顔出してもすれ違いで…、あぁ、こんなんじゃ同じところで仕事してる意味が…、もしかして、あたしに飽きたのかしら、ううん、家ではいつも優しいし…、…本部の …あの女?…」
なんかお終いのほうはぶつぶつ独り言になってるし、更年期か? この女。
キョージュが袖を引っ張るので、ソンコさんを残して詰所を出る。
「タモンさん、て、会頭の?」
私の問いにキョージュが肯く。
「タモンさんがキョージュの師匠だったんですか?」それならキョージュのこと聞きに行けば良かった。何でソンコさん教えてくれなかったんだろう。
「タモンさんに、どんなこと教わったんですか?」キョージュに問うてみる。
「別に何にも」キョージュは首を振った。
「でも、師匠なんでしょ?」
「この間、本部に行ったとき、今日からボク、キミの師匠になるから、って言われたんで」
「?」
「ああ、そうですか、って答えたんです」
「…」
深く考えると頭がヘンになりそうなので、考えるのをやめた。
「でも、タモンさんはイイ人ですよ」キョージュが言う「師匠を見る目はないですけどね」
「師匠の師匠?」オウム返しに問うた「タモンさんの師匠ってこと?」
「そうです。最低の男です」
「そんなヒドイんですか?」
「僕の父ですから」
「…」
いろいろ複雑なようである。
「でも、どうしてタモンさんとショミちゃんが関係あるんですか?」さっきのソンコさんを思い出して問うてみた。
「タモンさんはショミさんのお父さんですからね」キョージュは当然のように言った「もっとも知ったのはつい最近で…。ソンコさんの夫がタモンさんなのは前から知ってましたけど」
術師会というのは、どうやら会頭以下、家族経営で成り立っているらしい。血統を考えれば当然なのかもしれないが。そのうち叔父、叔母、従兄弟なんてのが出てくる前に、転職を考えるべきなのかもしれない。
「それにしても」話を仕事に戻す「エセ占い師の依頼に本部が首突っ込むって、どういうことなんですか?」
「うーん、まあ、本部も半信半疑なんでしょうけど」キョージュも首をひねっている「たとえ嘘でも、ザラスシュトラの鏡、って言われたら、放っておくわけにもいかないんだと思いますよ」
「ツァラトゥストラ?」
「それはニーチェ」
「ゾロアスター教の開祖ですよね」
「微妙に違いますが、そんなものです」
「ここ日本ですよね?」
「そうですよ」
熱が出そうだ。
術師たち(表)シリーズ第四作目です。
ラストがかなり不評でした。尻切れトンボと言われてしまった。作者的には、ちゃんと終わってるハズなんですけどねぇ。
サンタのちょっとした秘密が暴露されています。サンタはわりと作者好みです。