第一話 死者に会う呪術(3)
「…ああ、ソンコさん?…そう、僕。
…どこなの?社務所? 事務所じゃなくて、社、務、所、ね。…ああ、じゃあ、しばらく話せるね。
…そうだよぉ。もう、困っちゃって。…だって、本物だなんて思わないでしょぉ、普通。
…え? 何? 持ち帰れないか、って? …そりゃ、僕はかまわないですけど…」
携帯を右手に構えたまま、男はチラと探るようにこちらを見た。
依頼人をリビングに置き去りにして廊下に出て電話している。一軒家とはいえ、壁一つ挟んだだけの業務連絡にしては声が大きすぎる。傍で立っているこっちの身にもなってほしい。
「…結構キツいんじゃない? …あの子も…、そうそう、アキハさん。…アキハさんも、僕抜きだと立って歩けないくらいだし。…あんなもの囲いもしないで動かしたら、…その、…イロイロあるんでしょ? …僕はいいけどサ
…で、和歌山の方はなんて言ってるの? … … …じゃあ、京都は?
…
…
…僕のせいじゃないでしょう。
…いくら何でも言い掛かりですよ。…そもそも、こんな所にあっていいものじゃないんだし。…そんなの本来なら京都の方の管轄でしょう?
…でしょう?
…なくなったって、…そんな、ほっといていいもんじゃ…
…うん、
…うん、
…うん、わ か り ま し た。
…
…じゃあね。アレお願いしますよ。
…そう、シロムクとセンゴで、
…セ ン ゴ で、
…無理でしょ? それぐらいしないと、…そりゃ、使わないにこしたことはないですけど…
…念のためです…
…
…それは、こちらで説明しますから…
…
…大丈夫です、
…なんとかします、
…
…あ、電話はいいです。そっちからかけても、僕に取る気が無ければ、たぶん通じないから。…こっちからかけます。…はい、じゃあ、一時間後に、
…よろしくお願いしま〜す」
携帯を胸ポケットにしまった男は、長いため息をついた。
それからチラと再び私に視線を送ると、話しかけてきた。
「あの、アキハ、さん?」
「…はい?」
「ちょっと、その、…ちょっとだけ、困ったことになりました…」
嘘だ。
この男は嘘をついている。
自分に向けられた、あからさまな不信感に、どうやら男は観念したらしい。おずおずと話し出した。
「うーん。よく考えると、ちょっと、ということはないですね。…そう、…そうですね。…それなり、…そうだ、…それなりに困ったことになってます。」
コイツは大嘘吐きだ。
確信した。
しかも悲しいほどに嘘が下手だ。
私は泣いてしまいたかった。コイツの嘘が悲しかったのではない。こんな嘘を聞かなければならない己の不遇に泣きたかった。