第三話 純潔を守る秘宝(12)
遊びましょう、と言われたものの、どうしたらいいのかわからない。
かなり状況はヤバそうではあるが、彼女は見た目怖そうではないので、いまひとつ危機感がわかない。
美人は得だということだろうか?
それに、夕ご飯まで帰す、と言っているのだから、お腹がすいたと言えば、帰してくれるのかもしれない。
「遊ぶのはいいけど、お仕事はどうするの?」ソンコさんが問うた?
「お仕事?」
「頼まれたことがあるんじゃなかった?」
「お留守番」彼女は頬を膨らませた「でも、もう飽きちゃった。ユカリ、帰ってこないし」
「じゃぁ、ユカリのところに行きましょう」ソンコさんが言う「この家には鍵をかけていけばいいわ」
「だめ」彼女は首を振る「待ってるもの、待ってるんだもの」
「ここにいなきゃだめなの」いつのまに、金髪碧眼に変わった少女は怒りに燃える青い目でソンコさんと私を睨む「だから、ここで遊ぶの、みんなで遊ぶの」
「待ってる、って、誰を待ってるの?」そう言うソンコさんの髪も亜麻色に、瞳も紺碧に変わっている。
7、8才と見える二人の少女が、座蒲団の上で問答している。もしやと思い、自分の髪を手繰って、それが金色に輝いているのに気付いた。上げそうになった悲鳴を辛うじて飲み込む。
「待ってるの。ここで、待ってるの」なおも少女は主張する「だから、みんなで遊びましょう」
もう一方の少女がその身にまとわりつく群青の焔を上げた「わがままはいけないわ。ヨシコちゃん」
ソンコさん、何かやる気だな。
「イヤ」少女は金色の髪を逆立て、頑強に首を振る「ここで遊ぶの、絶対、帰さないから」
対峙する二人の少女?に気を取られていたが、庭に何かいる。
お揃いの紺のチョッキと半ズボンを着た、外人の男の子が笑いながら立っている。
−−ヨシコちゃん、あ〜そ〜びましょ
女の子は庭に出る窓を開け放ち、男の子に飛びついた。
「トオルくん」
「ヨシコちゃん」
「トオルくん」
「ヨシコちゃん」
「遊びましょう」
「遊びましょう」
二人は抱きあったまま、くるくるとまわり、金紗を散らしながら登っていった。
真っ暗に戻った庭には、ビスクドールが二体。
「こっちがヨシコちゃんで、こっちがトオルくん」ソンコさんが人形を抱き上げて説明する「ヨシコちゃんはユカリの人形で、トオルくんがあたしの。この部屋でよく遊んだんだ」
「ジュモーで男の子っていうのは珍しいですよね」玄関先からキョージュが庭に入ってきた「思ったより説得は楽でした。トオルくんもヨシコちゃんのこと、憎からず思ってたようなんで」
「で、どうします?」キョージュが問うた。
「両方ともユカリのところに送るわよ」ソンコさんが答えた「もう悪さはしないだろうけど、離したらどうなるか分からないし、ユカリもオメデタらしいから、トオルくんは出産祝いってことにしておく」
「じゃあ、結局、今回の件はそのユカリさんの依頼ってことですか?」
「うーん」私の問にソンコさんが首を振る「ユカリは何にも知らないしなぁ。強いて言うならあたしが依頼人てことになるけど…」
「え? じゃぁ、もしかして、私、今回タダ働き?」
がっくりと肩を落とす私に、ソンコさんが控えめに声を掛けた。
「まあ、タダってのも気の毒だから、あたしが出すわよ。本部通さないで、直接で」
「え?」
「50万でいい?」
「え? え? え?」ソンコさんの肩を両手で掴んで顔を間近にもっていく「ほんとに50万くれるの? ほんと?」
「え? あ、う、うん」
ソンコさんが肯くのを確認して、部屋の中に置いたバッグに飛びつく、携帯を取り出してアクセス。やた、まだ締切前だ。
呆然と見守るソンコさんとキョージュをほったらかしに、世話しなく携帯のキーを乱打する。
確認。
待つこと10秒、メールが届いて。
「よっしゃぁぁぁ」夜空に拳を降り上げる「昭和の歌姫八代亜紀コンプリートDVDゲットォォォォ」
「うっかり買いそびれてたんですよ、初回限定版」頼まれもしないのに嬉々として二人に説明する「オークションに出たんだけど、即決価格が元の販売価格の3倍で、もうカードの枠もいっぱいだったから、ダメだと諦めてたんです…」
「代金引換で落としたので、明後日に届くんです」一杯に見開いた目で、ソンコさんにたたみかける「だから、それまでに50万円お願いします。あ、無理なら47万2500円でいいです」