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術師たち  作者: 二月三月
28/82

第三話 純潔を守る秘宝(11)

 

「何で来たのよ」


 ソンコさんは私の顔を見るなり、邪険に言う。握った右手を突き出して、ソンコさんの顔の前で開けた。


 鍵。


「ああ」ソンコさんはゆっくりと玄関の方を向いた。顎でしゃくって前方を示す。


 あの家の玄関、端がわずかに開いている。


「見ててごらん」ソンコさんに言われずとも、徐々に扉が開いていくのがわかる。音もなく。そして誰が触れるでもなく、その扉は開いていく。


「だから、鍵はもう、いらないんだけど…」ソンコさんは、やっと笑んだ「まぁ、来ちゃったモンはしょうがないよね」


「で、どうすんの?」


「私も行きます」


「ま、こうなったら、帰るより、むしろそっちのほうが安全かもね」


 扉は完全に開き、私とソンコさんを誘うように小さく揺れている。


 辺りはすっかり暮れて街灯の灯りが頼りだが、扉の中は午後の光のままだ。


 ソンコさんは一歩踏み出す。後ろに従った。


「あ、靴脱がなくていいから」


「え?」


「逃げるときはそのほうが楽だし、後で掃除すればいいから」


 家の中は照明は灯いていない。外からの光で十分な明るさがある。


 外は夜だけど。


「おままごとは、夜にやるわけにはいかないから」


 誰に言うでもなく、ひとりごち、ソンコさんは歩を進める。


 庭に面した6畳ほどの部屋。


 その部屋にソレはいた。


「こんにちは、でいいのかな? ヨシコちゃん」


「いらっしゃい、おひさしぶりね」


 若くなってる。


 昼はソンコさんと同い年くらいに見えたのに、今は私より若いくらいだ。


 何で? 夜は若くなるの?


 ずるい気がする。


「ごめんなさい、アキハさん、昼はあなたに合わせてみたのよ」


 こちらを見透かしてか、そう言われても釈然としない。


「うれしいわ、二人も遊びにきてくださるなんて、本当に何年ぶりかしら」


 遊びに来たわけではないんですが。


 ちょこなんと、座蒲団に座る彼女はレースのワンピースを着ている。燃えるような真紅のワンピース。突き出た2本の腕はあくまで白く。卵のように白く滑らかな頬。


 腰まで伸びる髪を解いた彼女は、中原淳一のさし絵、そのものだった。


「何して遊ぼうか」ソンコさんは言ったが、顔は笑っていない。


「おままごとよ」彼女は答える。


「いつまで遊ぶの?」


「日が暮れるまで」彼女は微笑んだ「夕ご飯までは帰らないといけないのでしょう?」


 夜なのに、庭から穏やかな陽射しが差し込むこの部屋は、つまり、いつまでたっても日が暮れない以上、帰す気はないということだろう。


 遠くでかすかに、パタンと扉の閉まる音がした。



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