第三話 純潔を守る秘宝(10)
キョージュに無理やり詰所に引っ張ってこられた。腹が立ったので、ムスッとしている。
「あの家の持ち主について聞きたいんですが」
「うん、そろそろ聞かれる頃だな、って思ってた」
ソンコさんはキョージュの問いに答えてはいるものの、どこか上の空だ。
「いま、どこにいるんですか?」
フランスだって、奥さん言ってたじゃない。頭悪いな、キョージュ。
「アメリカ」ソンコさんが言う「ボストンの近く。夫婦二人で」
何?
「旦那さん単身赴任じゃないんですか?」驚いて声をあげる「それにアメリカって…」
「あたしの知り合いは嫁の方なんだけど」ソンコさんは珍しく歯切れが悪い「もともとあの家は知り合いの生家なの。両親は子供の頃から海外飛び回ってたんで、昔はあの子とばあやしかいなかったんだ。結婚してしばらく旦那と住んでたんだけど、旦那の転勤で家空けることになったんで、その間、あたしが管理してるという…」
「で」キョージュが事務的にソンコさんを問いつめる「いまあの家にいるらしいモノについて、心当たりは?」
「ま、有るような、無いような…」
「名前は?」
「ヨシコ、ちゃん、で、いいんじゃないかな。少なくとも、あたし達はそう呼んでたし」
「お友達がいたハズですが。名前は?」
「ユカリ」
「ソンコさんのお友達じゃありません」キョージュはきっぱり言い切った「ヨシコちゃんのお友達です」
ソンコさんの眉がひくっと動いた「やけに詳しいようだけど、誰に探させたの?」
「企業秘密です」
ソンコさんの眉間にシワが寄る「ショミにちょっかい出すな、って言ったよね?」
「ちょっかいなんて出してません」とキョージュ「メアド交換しただけですから」
うお、いつの間に。
女子中学生とメアド交換、って、それ犯罪レベルだろ、キョージュ。
ソンコさんは見たこともないほど不機嫌になったが、あまり同情はしない。
「うちの娘、巻き込まないでよ」
「巻き込むつもりはありませんが」キョージュは動じる気配もない「だいたいソンコさんのお宅にあったんですよ、押入の奥に。ショミさんでなければ探し出せません」
「あたし片づけ苦手だもの」
「で?」お構いなしにキョージュが問う「名前は?」
「トオルくん」ソンコさんは完全にふてくされている「それで、どうにかなりそうなの?」
「トオルくん次第でしょうね」キョージュが言う「説得はしてみますが、こればっかりは、こちらの都合だけではなんとも…」
ソンコさんの娘、ショミの能力は、失せ物探し、だが。いったいキョージュはショミに何を探させたのだろう。それより気になるのはあの家の夫人のことだが…
バッグの中で携帯が鳴った。
取りだそうと身を浮かしたとき…
「それ、取らないほうがいいですよ」
キョージュが言った。
「でも…」キョージュとバッグを交互に見くらべる。携帯の呼び出し音は止まる気配もない。
「僕には、その音、聞こえませんから」キョージュが重ねて言う「あの家にいるモノは僕には見えません。声も聞こえていなかった。適当に話は合わせてましたけどね。もちろん、あの家からアキハさんが持ち出したものも見えません」
鳴り続ける携帯の呼び出し音を聞きながら、キョージュの言う意味を心の中で反芻する。
−−キョージュにしたら、そう言うしかないよねぇ
−−アキ姉さんは、普通のものも普通でないものも見えるけど
−−お嬢ちゃんの他は誰もいないって言ったから、喜んで来たのに
−−実際、誰もいないだろ
「そうは言っても、その携帯鳴り続けたら、アキちゃん、まいっちゃうね」
それはいつものソンコさんだった。そしてソンコさんはキョージュに問う。
「トオルくんの説得、どれくらいかかる?」
「1時間ください」
「わかった」
ソンコさんは立ち上がった。
「あまり良い考えとは思えませんが」キョージュは座ったまま、言葉だけでソンコさんを制した「因はアキハさんよりソンコさんのほうがまだ強いですよ」
「時間稼ぎなら同じことよ」
キョージュはため息をついた「いちおう努力はしますが、間に合わなくても恨まないでくださいね」
「それは出来ない相談だわ」ソンコさんは笑った「めいっぱい恨むから」
ソンコさんは私のバッグを見据え、言った。
「あたしが行くから」
音が止んだ。