第三話 純潔を守る秘宝(8)
「アキハさん、また、いらしてね」
閉められた扉の向こうの声に軽く会釈し、邸を辞した。
「ちゃんと鍵しめて」
あ〜、うっさいな。
「一人であの家行っちゃダメだって、キョージュ、言わなかった?」
鍵をかけ終わったとたんにサンタが減らず口を叩く。
「言われたけど…、まさか、あんなの出てくるなんて思わないじゃない、普通。霊峰友愛、って、どんだけ暇なのよ?」
「そういう意味じゃないんだけどさ」なぜかサンタはため息をつく「ま、なんにせよ。あげたものがこんなに早く役立ってうれしいよ」
「え? さっきの、とんぼ玉?」
「そ、そいつの御陰で来れた」
あらためて、サンタをまじまじと見つめる。
「じゃ、アンタ、もしかして…」
うん、とサンタが肯く「実体じゃないよ」
「へぇぇ、そんなこと出来るようになったんだ」
めずらしくサンタを褒めてみた。
これだけはっきりとした像が飛ばせるというのは、術師としてかなりの力量を要する。サンタの実力を疑っていたわけではないが、こんなことまで出来るとは思ってもいなかった。
ふと、さっきの邸内での会話を思い出す。
「じゃぁ、あのカゲって人も?」
サンタは肯く「ムコウの方が、年季入ってるから、いろいろヤラレたらヤバいけど、こっちは護符の実体があるから、まぁ、五分五分かな」
言うこともいちいちそれっぽく聞こえる。何か弟分が成長したような感じで、素直にうれしい。
「それにしても、立派になったねぇ。ボロいとはいえ、店も持って一国一城の主だし、ヒモやってた頃とは大違いだね」
「え? 何が?」
「何が、って…」私の顔から笑みがすっと引いた「アンタ、まさか…」
こちらの意図を読みとったものかどうか、サンタはまた欠伸する。
「ちょっと金回り良くなったぐらいで、女捨てるほどヒドくないよ、俺」
「あ、そ、そう…、じゃぁ、今度はサンタが彼女の面倒みる番になったんだ…」
「何で? ムコウのほうが金あるし」
「あの…、もしかして、お小遣いとか…」
「うん、いろいろ貰ってるよ」
ダメだ、こりゃ。
「そう言えば」サンタが急に思い出したように聞いてきた「あの石、どうなったの?」
「あの石?」突然そんなこと言われてもわからない。
「死者の石、アルフル族の」
あぁ、アレ。壊れちゃったよ、と言うと、それでも構わないとサンタは言う。
「破片でもいいんだ」
「キョージュが、まっさらにしちゃったよ」
「別のモノ入れるからいいよ」
サンタが言うには、たとえ浄化されたものでも、かつて強力な呪物だった器は、様々な力を封じるのに都合がいいんだそうだ。
キョージュにも聞いといて、と言うので、覚えてたらね、と返事した。
「疲れたから帰る」
そう言い残して、サンタは黄昏の光の中に溶けていった。