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術師たち  作者: 二月三月
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第三話 純潔を守る秘宝(7)

 

 呼び鈴を押す。


「どなたですか?」


「さきほどお電話いただきました。アキハです」


「まあ、お待ちしておりました。どうぞ、おはいりください」


 やっぱり、この鍵で開けるんだよなぁ。


 鍵を、がちゃり、と廻した。


 夫人は玄関先で待っていた。どうぞ、こちらへ、と促されるまま、奥へと進む。


「ダージリンでよろしいんですよね」


「はぁ、あのぉ、お構いなく」


 私が紅茶を口に含むのを夫人はうれしそうに眺めている。どうも気恥ずかしい。


「ご依頼の件なんですが…」


「ああ、それでしたらまた後にでも」


 え? それで呼ばれたんではなかったですか?


「ブリオッシュ、焼いてみたのだけど、召しあがる?」


「あ、でも…」


「遠慮なさらないで、あ、もしかしたら、ブリオッシュはお嫌い? あとお出しできるのは…、あ、テリーヌがあったわ。あれなら…」


「…好きです。ブリオッシュ、大好きですから。いただきます」


 夫人は嬉々としてキッチンのほうへ、なんか汗が出てきた。


 返ってきた盆の上にはブリオッシュだけでなく、テリーヌと、メロンに生ハムがのっている。


 もしかして、冷蔵庫を空にするまで帰してもらえないのでは? と不安がよぎる。


 ブリオッシュを一口噛んで、紅茶を含む。


「料理は嫌いではないんですけど」夫人が言う「どうしても作りすぎてしまうので、困ってしまうんです」


「あ、わかります、一人分つくるって訳にはなかなかいかないから、私もそれで、ついつい外食に」


「あら、アキハさんお一人でお住いなの?」


「はぁ、ワンルームで、変形なんで7畳ちょっとくらい、狭いんです」


「あら、それなら」夫人はちょっと不思議な表情をした「この家、どう思われます?」


 突然だったので、質問の意味をはかりかね、ちょっと沈黙してしまった。


「ほら、この家、一人では広すぎますでしょう。アキハさんさえよろしければ。下宿? そんな感じでここにいていただければと思って」


「あ、あの、それって…」


「このテリーヌいける。シャンパンが欲しくなるな」


 誰? この人?


 ぴたりと体に張りつく丸首の黒いサマーセーター、これまたどうやって履いたのか不思議に思えるほど細い黒のスラックス。


 黒のマネキンに両手と首だけをつけたような男が、左隣にいた。


「ね、お嬢ちゃん、キミもそう思わない?」


 いや、まだ、そのテリーヌいただいてないもんで。


 この家の人かな、と思って夫人のほうをチラと見る。さきほどまでのにこやかな表情は消え、冷たい陶器のような顔がそこにあった。


「シャンパンの用意はございますけど、その前にお名前を伺ってよろしいかしら?」


「名乗るような名前の持ち合わせはないんでね」男は顔の皮だけで笑ってみせた「それに俺が用があるのは、こっちのお嬢さんのほうなんだ。アンタじゃない」


 え? 私?


 あらためて男の顔を見た。日本人ばなれした掘りの深い顔であるが、見覚えはない。そもそも、どこからわいて出たんだ、コイツは?


「レイカ様が、拐ってこいって言うもんでね」男は嫌味なくさらりと言ってのけた「不本意ながら上司には逆らえないんだ」


「レイカ様…、上司、って、アナタ…、霊峰友愛の人?」


「お、話が早いね。じゃぁ、行こうか」


「行かせないよ」


 今度は右隣だ。この声には聞き覚えがあるが…。


「おお、サンタじゃないか、久し振りだな。元気かい?」


「あまり元気じゃないよ。カゲ」


 突如として現れた男二人が私を挟んで睨み合っている。状況によっては喜ぶべきことかもしれないが、これは…。


 そもそも、オマエら、どこから出て来たんだよ?


 サンタがカゲと呼んだ男がため息をついた「レイカ様、お嬢ちゃんの他は誰もいないって言ったから、喜んで来たのにな…」


「実際、誰もいないだろ」サンタが挑発するように言う。


「…ア、ハン、なるほど…」男はニヤリと笑んだ「それじゃ、サンタ。オマエ何もできないんだな?」


「何もできないよ」サンタは欠伸した。わざとらしく両腕を目一杯に伸ばす「カゲ、それはアンタも同じだろ」


「そりゃ、そうだ」男は笑った。本当に愉快そうに「イヤな感じだな。俺の嫌いなキョージュの気配までするし」


「俺が何もできなくても」サンタは相変わらず薄ぼんやりしている「俺の護符はイロイロできるよ」


「キョージュ臭いのはそのせいか」男の顔から笑みが消えた「出直したほうが良さそうだな」


「アンタのそういう見切りの良いところはキライじゃないな、カゲ」


 男はフン、とサンタに一瞥をくれると、夫人に向き直って言った「テリーヌうまかったよ。シャンパンは惜しかった。邪魔してすまかった」


 そして、現れた時と同様、唐突に消えてしまった。


「アキハさんのお友達なの?」


「いや、いなくなったほうは違うと思うんですけど」夫人の問に答えるのは正直辛い「残ったほうは、それに近いという何と言うか…」


「アキハさんのお友達なら歓迎です」夫人はサンタに言った「あなたもお茶召しあがる?」


「いらない」サンタは素っ気なく答えた「俺、この人迎えに来たんだ。仕事なの」


「あら」


 え? そうなの?


 サンタは立ち上がった。私の腕を引っ張りながら「帰るよ。アキ姉さん」


 夫人とサンタの顔を交互に見くらべる。


「帰られるの? アキハさん」夫人が問うた。


 しばし躊躇したが、よく考えたら今日初めて来たばかりのお宅に長居するのも、確かにどうかと思う。


「…はい、…その、いろいろご迷惑おかけしまして…、その…、帰ります」


「そう」夫人は失望を隠さなかった「残念だわ。本当に、残念だわ」



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