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術師たち  作者: 二月三月
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第三話 純潔を守る秘宝(5)

 

 いろいろあって、疲れた。


 もう、このまま家に帰ろうかとも思ったのだが、帰り道だし、なんとなく詰所に寄ってしまった。


 ソンコさんがいた。


 しまった、と思った。疲れのせいで思考力まで低下しているらしい。


「調子どぉ?」


 逃げる気力も失せていたので、ぼそぼそと報告する。


 ソンコさんはニコニコしながら聞いている、私がバッグから取り出したものを摘んで目の前でしげしげと見ている。


「へぇ、これが、貞操帯かぁ、あたしには小ちゃくて無理だな」


 着けんでいいです。ヘンな想像しそうなんで、そういうこと言うのやめて下さい。疲れてるんです。


 やっぱり鍵なのかな、とか、ソンコさんはぶつぶつ言っている。


「何が何だか、ぜんぜん、わかりません」そう言って報告を締めた「キョージュもサンタも役に立ちません。終わり」


「ご苦労さま」ソンコさんは上機嫌だ「だいぶ進んでるみたいで安心した」


 何がですか? いったい、どこがどう進んでいるんですか? 何か思うところあるんなら教えてください。


 目力のありったけを注いで、ソンコさんを見つめたが、ニコニコしているだけで反応はなかった。


 来客用ソファに身を投げ出す。このソファに客が座っていたのをついぞ見たためしがない。


「キョージュって、どんな人なんですか?」


 特に意味があって聞いたわけではない。たぶん、疲れていたからだと思う。


「どうって言われてもねぇ」


 ソンコさんは天井を向いて指折数えだした。


「まず、傍若無人で天下無敵だわよね」


 それは知ってる。


「あと、他人の話は聞かない」


 それも知ってる。


「それと嘘つき。しかも性質の悪いほう」


 性質の良い嘘つきと性質の悪い嘘つき、ってどこが違うのか問うてみた。


「んー、性質が良い、っていうより普通の嘘つきはね、嘘ばっかり言うんだよね。だから無視してていいんだけど、キョージュは違う」


「…と言うと?」


「ときどき本当のこと言うんだ、アレは。それで無視してると、コトが起こってから、ちゃんと言ったじゃないですか、と、こう来る訳」


「…ああ」確かにそれは性質が悪いな。


「何でそんなこと聞くの?」ソンコさんがニマニマしながら逆に聞いてくる「少しはキョージュのこと気になる?」


「そんなんじゃないですけど…」なんとなくバツが悪い「サンタにキョージュの話聞いてもよくわからないことが多いんで」


「あぁ、サンタじゃ、わかんないだろうね」


「誰か、キョージュのこと知ってる人で、壊れてないの、っていないんですか?」


「ああ? えー?」ソンコさんは困っている風だ。「…親がいるな」


「いきなり、親御さんは、ちょっと…」


「そぉ? ま、アレも壊れてる部類に入りそうな感じだし、壊れてないのねぇ…」


 キョージュ知ってる人間が全部壊れてる、って実際どうよ?


 しきりに首をひねるソンコさんだったが、最後に控えめに尋ねてきた。


「性格的にはアレなんだけど、キョージュが壊したわけじゃないのが一人いるよ。会ってみる?」


「どういう感じにアレなんですか?」


「傍若無人で天下無敵、他人の話を聞かないんだ」


「キョージュと一緒ってこと?」


「いや、彼女は嘘つきではないから」


「彼女、って女性ですか」ちょっと興味がわいてきた「どうやったら会えるんです」


「呼べば来るよ。たぶん…」


「ここに来るんですか?」


「うん、霊峰友愛の関東支部長だし、支部はすぐそばだから、呼べば来るよ」


「ちょっと待て」電話の子機を握るソンコさんの手をつかむ「霊峰友愛、ってウチとドンパチやってる術師集団じゃないですか…、その支部長、…ここに呼ぶって」


 何考えてんだ、アンタ。


「…あ、もしもし、ソンコで〜す。…あら、レイカ様、ご本人? ちょうど良かった」


 ソンコさんは子機を両手で押さえながら話し、取り上げようとするこちらの腹を右足でぐいぐい押してくる。なんて足癖の悪い女だ。


「…そ、ソンコよ、レイカ様。ちょっとこっち来ない? あんたのダーリンの新しい…、いや、あんたのダーリンが呼んでるんじゃなくて、あんたのダーリンの相方を…、って、切っちゃったよ、あ〜あ」


 ソンコさんは子機を置いた「相変わらず、人の話を聞かないな、あの女は。絶対、勘違いしてる」そして私のほうを向いて言った「来るって。まあ、とりあえず見るだけでも見とけば? 面白いよ」


 傍若無人で天下無敵、他人の話を聞かない、性質の悪い嘘つき、もう一人いましたね。いまごろ気づく私も馬鹿ですが。


 もう、敵対勢力の支部長でもなんでも連れてくればいいじゃん。少なくともソンコさんの言うことが本当なら嘘つきではないそうだし、それだけでも私の周りの人間たちに較べれば限りない美点だ。



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