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術師たち  作者: 二月三月
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第三話 純潔を守る秘宝(4)

 

 ファントム・ショップ・サンタの店主は昼寝していた。


 自分の店で何をしていようが、店主の勝手、といえば勝手だが、むやみに腹が立つ。


「こら、起きろ」


 カウンターに突っ伏していた上半身が、もぞり、と上がる。


「おや、こんちは」


 サンタは大きくノビをした「何か用?」


「これ、どう思う?」例のブツをカウンターに置く。


 サンタは手に取って、裏返したりと一通り調べてから言った「ウチじゃ扱えないなぁ」


 そういうことを聞いてるんじゃない。


「何かこもってる、とかそういうのないの? 因縁とか何か見てわからない」


「そういうモンなのは確かでしょ」この男、明らかにやる気がない「アキ姉さんに見えるんだから、ヤバいモンには違いないよ」


「どういう意味?」


 問いには答えず、サンタはソッポを向いて言う「キョージュはどう言ってんの?」


「あ、え? キョージュ?」いきなりキョージュの話が出てきたので、少しまごついた「サンタに見せろって、そう言われて来たの」


「ああ」サンタは納得したように頷いた「そりゃ、キョージュにしたら、そう言うしかないよねぇ」


 何が何だかわからない。


 埒があかないので、事の来歴を話してみる。サンタは聞いているのかどうかさえわからない。フワフワしている。


「ちょっと、アンタ、聞いてんの?」


「ん〜、聞いてないけどさ」サンタはどこ吹く風だ「で、アキ姉さんは、どうしたいのよ。これ着けたいの?」


 思いっきり、首を左右に振る。何でそういう話になるんだ?


「そうだよね。あまり必要なさそうだしね」


 もしもし? それどういう意味かな〜?


「ま、もともと身に着けるモンでもないしさ」


「へ? 何で? 貞操帯って身に着けなかったら意味ないでしょ?」


 またまたぁ、サンタは右手をヒラヒラ振った。「着けないよ。昔の恋人同士がさ、送ったり送られたりしたんだよね、コレ。俺のために綺麗な体でいて、とか、あなたに操を守ります、とかさ。実際は、そういう連中に限って浮気し放題なんだけど」


「だって、本当に着けた人だっているかもしれないじゃない」


「無理だよ」サンタは鼻を摘む仕草をした「だって臭いもの」


「は?」


「外人って体臭きついんだよぉ。こんなもの着けてたら、三日でたいへんなことになって百年の恋も冷めちゃうよ」


「はぁ」


 なるほど、そんなことは、ついぞ思いいたらなかった。


「信じてたのはルイ16世くらいじゃないの?」


「フランス王の?」


「そ」サンタは貞操帯の錠を開ける仕草をした「王なのにモテなかったらしいからね。地下室にこもってずっと開錠の研究してた。貞操帯の鍵が開きさえすれば女の人とイイコトできるって思ってたらしいよ」


 仏ブルボン最後の王に多少の憐憫は感じたものの、当面、いまの仕事にはまるで関係がない。


「じゃ、ご主人は、奥さんにこれを着けさせたかったわけではないんだ」


「旦那のことは知らないよ」またサンタはわからないことを言う「これ奥さんのだもん」


「だって…、さっき言ったでしょう? これは旦那さんの書斎から出てきたのよ」


「どこから出てきたって、奥さんのものは奥さんのもの」ここでサンタはちょっとだけ言葉を切った「あ、奥さんじゃないや。奥さんに見えるような奥さんじゃないモノのモノ」


 ぜんぜん、意味わかんないんだけど…。


「それじゃ、これは単なる装飾品で、念がこもってるとか呪物とかそういうシロモノではないのね?」


「呪物だよ」サンタはぽけっとした顔になった「アキ姉さんに見えるんだから、普通のものなわけないじゃない」


「だから、それ、どういう意味よ?」


 あ〜、わかった、わかった、説明するから。そう言ってサンタは店の奥に入って行った。何かごそごそやっていたが、目当てのモノを探し当てらしく、カウンターの上に持ってきた。


 黒い箱だった。


「これ何色に見える?」


 いま運んできた箱は無視して、サンタは傍らのペンダントを取って差し出した。翡翠の透かし彫りだが、たぶん見た目の色を尋ねているわけではない。


「赤」それは鬼灯のように薄ぼんやりと揺らめいている。


「じゃ、これは?」


 柘のかんざしで、うっとりするほど見事な菊が彫りこまれていた。


「青」


「これは?」


 短剣、柄の部分に宝珠がはめ込まれている。


「緑…かな」


「ふーん、じゃぁ、これは?」


 サンタが思わせぶりに箱を開けて見せたのは、一見何の変哲もないとんぼ玉だった。細工も甘いし色もそれほど鮮やかではない。なにより、他のモノと違って何の光も見えなかった。


「よくわからない…」


「やっぱりね〜」サンタはパタンと箱を閉じた。


「何がやっぱりなのよ」


「アキ姉さんは、普通のものも普通でないものも見えるけど、キョージュは見えない」


 サンタは、すっ、と黒い箱を前に押し出した「これあげる。我ながら、良いデキだったみたい」


「え? 貰えないよ。こんなの」


 サンタの護符は仲間内でも一級品で通っている。本人がデキが良いと言ってるのだからかなりのもののはずだ。そんな簡単に貰うわけにはいかない。


 と言うより、デザインがダサすぎてヤダよ、こんなの。


「まあ、そう言わずにさ」サンタはしつこく薦めてくる「たぶん、アキ姉さんにしか持てないし、効かない。作ったのはいいけど、俺には強すぎてこの箱に閉じ込めて置くしかない。アキ姉さんに引き取ってもらうしかないんだ」


 大事にしてね。とサンタは言った。


 何だか、


 へんなの。



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