第三話 純潔を守る秘宝(3)
よろしくお願いします、と夫人に頭を下げられ邸を辞した。
「あ、アキハさん、駄目ですよ。ちゃんと鍵かけないと」
あ〜、こうるさいヤツだ。はいはい、わかりました、かけますよ。
がちゃり、と重い音。玄関を閉める。
それにしても、おかしな物を押し付けられてしまった。いちおう、調べてみますと言って受け取ってはみたものの、どうしたものか。
いまバッグの中に入っている。夫人の言う不思議なものとは、金属製の下着だった。丁寧に宝石で飾られている上に、左右には対の錠前。
差し出した時の夫人の微妙な表情も無理もない。
いわゆる貞操帯である。
アンティークとしてそこそこの価値はありそうだが、それにしても、何故?
何故? ウチなんかに相談するのだ?
まあ、ソンコさんの知り合いらしいから、ソンコさんに相談するのは百歩譲るとしても、何故こっちに持ってくる?
わかっている。あの夫人のせいではない。
悪いのはソンコさんだ。
「どうしましょうか?」
「うーん」キョージュは腕組みしている「こういうのは僕のほうからはなんとも言えませんねぇ」
正直、キョージュにはまったく期待していなかったが、いざ、こう言われると心細い。
「サンタくんにでも見せてみたらどうですか?」
なるほど、サンタがいたか。おかしな店をやっているから、おかしな物には詳しいかもしれない。
「あと、おせっかいかもしれませんが、アキハさん」珍しく神妙な物言いのキョージュである「あちこちで名乗るの控えたほうがいいですよ」
「は?」
「さっきも、ソンコさんの友人って言えって言われてたのに。アキハです、って言っちゃうし」
「だから、ソンコさんの友人のアキハです、って、ちゃんと言いました」
「そうじゃなくて」キョージュは何か困っているようだ「我々、術師はですね。基本的に名乗ったりしないんです、ってば」
「何で?」
「だって、呪われたら困るでしょ」何をいまさら、という顔のキョージュ「最近では、流行らない呪法だから、あまり気を使う必要はないといえばないんですが」
「でも、私、キョージュの名前知ってますよ。近衛公人さんでしょ?」
「偽名のうちのひとつです。一般の人には、我々の慣習は奇異に映りますから」
何ですとぉ、
どーして、そんな大事なことをいまになって言うんだ、オマエは。いや、オマエらは。
「じゃ、駿河、って」
「まあ、それは旧姓なんで偽名とは言えないけど、ある意味、昔の知り合いみたいだし…。それにしたって、駿河ソンコ、なんておかしな名前の人、いるわけないじゃないですか」
常識で考えてください、ジョーシキで。と、ことさらキョージュは常識を強調する。
オマエに言われる筋合いはないぞ。だいたいそれのどこが常識なんだ。
「サンタの店に行ってきます」
キョージュはサンタの店に寄り付かない。どちらが嫌がっているのかは、いまのところ微妙だが、あそこならキョージュの顔を見ないですむ。
代わりにサンタ、というのもアレだが、いまはそんなこと言っていられない。
「あと、わかってるとは思いますけど」キョージュの声が私の背中に飛んだ「さっきのお宅に一人で行ったりしたらいけませんよ」
そんなこと知ったことか、ボケッ。