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術師たち  作者: 二月三月
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第一話 死者に会う呪術(2)

 

 依頼人は初老の男性だった。


 手塚と名乗ったその人と、私たちはリビングテーブルをはさんで向かい合った。


 目の前のテーブルには古めかしい寄木の箱。連れの男の加護を十二分に受けているのを感じながらも、なおそれを圧倒するほどの呪がその箱から滲み出してくる。もし一人で対峙していたら、蓋を閉めたままでも悲鳴をあげかねない。恐怖をむきだしにした何かがそこにはあった。


「開けてもよろしいですか?」


 私は連れの男を睨みつけたのだと思う。依頼人の顔に困惑の色が浮かんだが、男はお構いなしに古箱をとり、蓋を開けた。


 目を背けたが間に合わなかった。




 黒い毛のかたまり。




 少し長い。土から掘り出したばかりの人参に毛を巻きつけたように見えた。




「指かな?」男が言う。


「5本あります」依頼人が答えた。


「つまり、手ですね」


 蓋が閉められテーブル古箱が戻される。とにかく、ほっとした。


「それで、やはり願いを叶えたいと?」


 男の問いに依頼人はリビングの隣の和室を見やった。


 真新しい仏壇に、ほがらかに笑む初老の婦人の遺影があった。遺影に目をむけ、依頼人は再び自分の膝に目を落とすと、小さく「はい」と答えた。


 男は困ったようにため息をつく。それはそうだろう、私だって困っている。ソンコさんから概要は聞いていてのだが、ここまで来て、改めてこの仕事を引き受けたことを後悔した。


「たいへん申し上げにくいのですが…」


 心底すまなそうに、男は切り出した。


「この呪物はいけません。おそらく手に入れられるのにかなりのご苦労があったとは思いますが、なんと申しますか、その、少々誤解があったようで…」


「誤解と言いますと?」


「はい、残念ですが、私どもではご依頼主様のご希望に沿うことはできません」


「そうですか…」


 依頼主はそれほど落胆した様子には見えなかった。どちらかと言えば否定の言葉を期待していたようにすら見えた。この場で依頼を断ったことで私は近衛氏を少し見直した。依頼主には申し訳なかったが、もうすぐこの禍々しいモノから離れられると思い、正直うれしかった。


「ただし、この猿の手を使わずとも良い、ということでしたら話は別です」


 驚いた。それは依頼主も同じだったろう。二人とも目を剥いて発言の主を見つめる。思いはまったく異なる二人であったが。


「ご依頼主様のご希望は、もう一目だけ亡くなった奥様にお会いしたいということ、それ自体は承ることにやぶさかではありません。しかし、それにはこの猿の手が邪魔なのです」



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