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術師たち  作者: 二月三月
19/82

第三話 純潔を守る秘宝(2)

 

「あ、違いますよ。最初に呼び鈴を押すんです」


 バッグから鍵を取り出した私にキョージュが言うので、睨みつけた。


「わかってます」


 本当に来やがった。コイツもソンコさんも大嫌いだ。


 あらためて呼び鈴を鳴らす。


「どなたですか?」


 声はインターホンからではなく、玄関のドア越しに聞こえた。


「あの、駿河さんの友人のアキハと申しますが」


「まぁ」声は急に華やかに響いた「お待ちしておりました。どうぞ、お入りください」


 手に握った鍵と玄関扉の鍵穴を見つめる。玄関が開く気配はなく。やはりこの鍵で開けるようだ。


 キョージュが肘でつんつんするので、もう一度睨みつける「わかってますから」


 鍵を差し込んで廻すと、がちゃり、と重い音がした。


「どうぞ、こちらへ。廊下をまっすぐ」玄関を開けてすぐに、声は奥のほうから呼びかけてきた。呼ばれるままに靴を脱いでスリッパに履き替え廊下を進む。


 豪華な、とは言いすぎかもしれないが間口の広いゆったりとした家だ。調度も持ち主の趣味の良さが出るようで、落ち着いた雰囲気を感じさせる。


「わざわざ、お出向きいただいてありがとうございます」


 リビングで待ち受けていたのは感じの良いご婦人だった。軽く一礼する仕草にも優美さがともなう。セレブってこういう人のことか、などといらぬ雑念が頭をよぎる。


 勧められるままソファに腰を降ろした。キョージュも隣に座ったが、まあ、これは仕方がない。嫌だけど。


「お飲み物は何がよろしいでしょうか?」


「あ、あの…、お構いなく」


「ダージリン・オレンジペコが好きです」


 キョージュをぎっと睨みつける。夫人は小さく、ほほ、と笑い、お嬢さんもそれで? と尋ねてくる。顔を真っ赤にして声もなく頷く。


 夫人が紅茶を煎れに行っている間に、キョージュをつねる。


「何であんなこと言うんですか?」


「好み聞かれたんでしょ? 間違いました?」


「それはそうだけど、あんなずけずけ言うことないでしょ」


「遠慮したんですよ。昼間からブランデーくださいとか言えないでしょう?」


 もうコイツには何も言うまい。


 ほどなく夫人が盆を持って現れたが、ティーカップの隣にブランデーの小瓶を認めた時は、顔から火が出るかと思った。


 キサマは声が大きすぎるんじゃ、内緒話も満足にできんのか。


 紅茶を口に含んだが、頭に血が上って味も香りもわからない。


「お一人でお住まいなんですか?」


「ええ」キョージュの問いに夫人は軽く頷く「夫は単身赴任で外国の方に」


 外国ですか? と私が問うと、夫人は、フランスです、と返した。


 いいなぁ。フランスか。一度行ってみたい。


「実は、相談というのは、その…、夫のことなんです」


「はぁ」頼りなさげに相槌を打ちながら、キョージュのほうを盗み見る。キョージュは、そのまま続けて、という風に目線で合図する。気乗りはしないが、キョージュが聞くよりは私のほうがマシかもしれない。


「ご主人が、どうかされましたか?」


「はい、夫の書斎で不思議なものを見つけてしまいまして」


「不思議な、もの、ですか?」


 はい、と頷いた夫人は、どうぞこちらに、と促しながら先に立ってリビングを出て行く。


 奇妙な感じは拭えなかったが、他にどうしようもない。夫人に従いこの家の主人の書斎へと向かった。



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