第三話 純潔を守る秘宝(1)
「…えーっとね、じゃ、もう一回、最初から説明するから、ちゃんと聞いてね」
「…はい、どうぞ」
「まず、先方のお宅に着いたら、玄関の呼び鈴を鳴らす」
「はい」
「そうすると、たぶん、どなたですか? って聞かれるから、ソンコの友人です、って答えるのよ。わかった?」
「はぁ」
「そしたら、むこうが、よくおいでくださいました、お入りください、とか何とか言うから、そこで、この鍵で玄関を開けて…」
「わかりません」
はあ、とソンコさんはため息をついた。しかし、あきらめる気はさらさらなさそうだ。
「じゃぁ、もう一回、説明するからね。まず、むこうに着いたら…」
「どなたですか、って聞かれたら、ソンコさんの友人と答え、お入りください、と言われてから、鍵を開けて中に入る」
「なんだ。ちゃんとわかってるんじゃない」ソンコさんは、ニッコリ微笑んだ「じゃ、頼んだわよ。後はヨロシク」
「まだ聞いてないことがあるんですが?」
「何よ。全部説明したでしょうが?」
デスクの上に置かれた鍵を見つめる。なんの変哲もない部屋の鍵だ。その鍵をはさんでソンコさんと私はにらみ合っている。
「どうして家の中に依頼人がいるのに、私が家の鍵を開けるんですか?」
ソンコさんは椅子から立ち上がった。デスクを廻り、私の傍らに寄ると、顔を目の前三十センチに持ってきて言う。
「いい? アキちゃん。わからないようだから、もう一回だけ説明してあげる。まず、先方に着いたら玄関の呼び鈴を鳴らすの、そうすると、どなたですか?って聞かれるから、あたしの友人です、って答えて、それから…」
「…わかりました。もう…、いいです」
「まあ、アキちゃん」ソンコさんは破顔一笑、私の肩をポンポンと叩いて鍵を上着のポケットにねじ込んだ「絶対アキちゃんなら引き受けてくれると思ってたんだぁ。じゃ、がんばってね」
憮然としてデスクの前から動こうとしない私に、ソンコさんがさらに追い討ちをかける。
「あ、キョージュも連れてってね」
「何で?」一転して語気が荒くなる。キョージュと聞いたら当然だ。
「だって、鬱陶しいんだもの」ソンコさんは当然のように言う「最近、用もないのに詰所に現れては、そこの来客用のソファに座って週刊誌読んだりしてんのよ。ちらちら入り口のほう眺めながらさ。アキちゃんが、ちゃんと面倒見てあげないから」
「何で、私がキョージュの面倒見るんですか?」
「今月から危険手当上乗せになってるでしょうが、貰うものだけ貰って、仕事しないっていうのは、お姉さん関心しないなぁ」
給与明細なんかよく見てなかった。本来赤字のハズのカードの引き落としがすんなり通ってしまったのは、単なるラッキーだと思っていたが、そういうことだったのか。
「あの、いまからお金返しますから、それは無かったことに…」
「だメ」ソンコさんはニコニコ顔でちぎれんばかりに両手を振った。「じゃあね。キョージュには連絡つけといたから、途中で合流すると思うよ」
ソンコさん…、最初から押し付ける気まんまんじゃないですか。
術師たち(表)シリーズ第三作目です。
キャラ一番人気の噂も高いレイカ様が初登場します。ソンコさんも今回はがんばっているのですが、あまり評判が良くありません。いつも不幸なアキハさんですが、この話では少しだけイイことがあったようです。