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術師たち  作者: 二月三月
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第二話 恋が叶う呪文(9)

 

 野暮用でサンタの店に行ったら、ショミがいた。


「あ、アキハだぁ」あわてて外に出ようとしたが遅かった。


 ショミはちょっとアレな趣味のアンティーク品の間を、すすす、と抜けてくる。


 何か怪しくニマニマしている。やはりあの人の娘だというのは本当みたいだ。よく似ている。


「アキハってホントはスゴい人だったんだね。サンタに聞いたよ」


 何をどうサンタが語ったものか、とっちめてやろうと思うより早くショミが言った。


「生贄のスペシャリストだったなんて、びっくりした」


 それは褒めてくれているのかしら? ショミちゃん? お姉さん、全然うれしくないんだけど。


 ショミは瞳に星でも入ったのかと思うほどキラキラさせている。この間会った時とは別人のようだ。


「あの…、何か用かしら? ショミちゃん?」


「うん、用あるよ」ショミが言った「キョージュ呼んで」


「え? キョージュ」


「そう、キョージュ。サンタってば、キョージュ呼ぶの嫌がるんだよ。だから、アキハ、お願い」


 相変わらず唐突な子だ。


 一瞬、私を拝み倒すソンコさんの姿が浮かんだ。


 が、しかし、


 よく考えてみれば、ソンコさんにはいつもひどい目にあわされているような気がする。彼女の願いを私が聞かねばならない理由がどうしても思いつかない。というより、あの女は少し痛い目をみたほうがいいんじゃないかと思う。


 それに、


 この小娘がキョージュにまとわりついてくれるのなら、相対的に私の不幸は幾ばかりか減る方向に向かうのではないか?


 そうだ。そうしよう。


 携帯を取り出しボタンを押す。


「いま、呼んであげるよ」


「わーい」


 これは意外といい考えかもしれない。無邪気にはしゃぐショミを見ながら、キョージュを呼び出した。



 またファミレスにする? と問うと、ショミはそこの公園でいいと言う。


 二人で待っていたら、何をどうしたものか5分でキョージュが来た。


「アキハさ〜ん、何か用ですか?」コイツはいったいどこにいたんだろう?「おや、ショミさん、こんにちは」


「こんちは、キョージュ」この小娘、物怖じとかいう言葉とは無縁らしい「アタシが、アキハに頼んで呼んでもらったんだよ」


「おや、それは、また」キョージュはちょっと怪訝な顔をした「何の用です?」


「このまえ言ってた、アレ、教えてよ」


「アレ? と言いますと?」


「オトコをメロメロにする呪文」


 やはり、よくわからないヤツだ。でも、キョージュが手を焼いているようなのでヨシとする。


「アレはアナタにはちょっと難しすぎると思いますが」


「それはアタシが決めるからいいよ」


「非常に危険だと言ったはずですけど?」


「そういうのは、いつだって命懸けでしょ?」


「わかりました」意外にもキョージュはあっさり陥落した「ちょっと耳貸してもらえますか」


 大丈夫なのか? おい。軽そうなキョージュの行動にこっちが心配になってくる。


 キョージュがショミの耳許でぼしょぼしょと囁いている。最初のウチこそニコニコ聞いていたショミだが、やがて眉間に皺がより、あからさまに片眉を上げた。


「それって、アンタ、自分でやったことあるの?」


「まさか」キョージュは首を振る「こんなこと、恐くてできませんよ」


「アンタ、聞きしに勝るヒドイ男だね」ショミはキョージュを睨みつけた「サンタの言う通りだわ」


 ショミはいきなりキョージュの向こう脛を蹴りとばして逃げた。突然の攻撃にキョージュは声も出せずにうずくまる。


 公園の入口まで駆けていったショミは、振り向くと口に手を当てて叫んだ。


「アキハ、キョージュ」それはよく通る声だった「エリを助けてくれて、ありがとう」


 母親より、だいぶ可愛げがある。


 弁慶の泣き所をさするキョージュは、うずくまったままだ。そんなキョージュが見られるだけでも、かなり気分が良い。


 しゃがんでいるキョージュを覗き込んで問うてみた。


「いったいショミちゃんに何いったんですか?」


「だから、恋が叶う呪文、です」キョージュは泣きそうな顔で言った「自分で聞いておいて、こんなことするなんてヒドイ」


 なんだか急に、その呪文が知りたくなった。


「それ、どんな呪文なんです?」


 あなたもですか? とキョージュが言う。すごく嫌そうだ。キョージュの嫌がることなら、聞いてみたい。


「ケチらないで教えてください」


「いいですよ」キョージュはふてくされて立ち上がった「ものすごく強力ですから、使用は慎重に」


「わかってます」やけにもったいぶるな、コイツ。


 キョージュは私に向き合って立った。


「まず、相手の目を見ます」


「はい」


「真剣に、じっと見つめるんですよ。それから…」


 キョージュは大きく深呼吸した。



「あなたを愛しています」



 頭の中が真っ白になって、なんだかわからなくなった。


 ぼーっと立ち尽くす私の顔を一瞥し、キョージュが付け足した。「って、言うんですよ。わかりました?」


 右手が一閃してキョージュの頬をしたたかに張った。キョージュがもんどりうって宙を飛ぶ。


「何、するんですかっ」キョージュが悲鳴をあげる「女の人、って、どうして、そう同じようなコトばかりするんですっ」


「生命の危機を感じたから」心地よい痛みに痺れる右掌を見つめながら答えた「単なる自己防衛の反射行動です」


 確かに最強の呪文ではある。キョージュの言っていることは正しい。


 正しいからといって、受け入れられる類のものではないのも、また確かなことだ。



<恋が叶う呪文 − 了>

 



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