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術師たち  作者: 二月三月
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第一話 死者に会う呪術(1)


 最初は人違いだと思ったのだ。



「アキバさんですね」と問われて、ハイと答えた「本当は明葉あきはですけど」と告げようとして振り返る。


 驚いた。


 三つ揃えに青のネクタイを締めた銀縁眼鏡の男。


 あまりに普通の風体である。


 男は、柔和な笑みをたたえつつ深々とお辞儀をした。


「よろしくお願いします。あまり時間もありませんし、急ぎましょう」


 そして、ずんずんと歩いていくその男の背中をほんの瞬き見つめていたが、我に返って駆け寄った。


「あ、あの、近衛さん?」


 ハイと返事はあったが、こちらを向くでもない、男は歩みをゆるめず先へ先へと進む。


 この稼業を始めて2年になる。正直、駆け出しだが、この業界の人間とは何度も一緒に仕事をした。別に衣冠束帯で来いなどと言う気はないが、いくらなんでもこんな一般人丸出しといった感じの人と組むのは初めてだ。


 厚手のブリーフケースを右手に持ち淡々と歩む様は、弁護士というのがいちばんシックリくる、百歩譲ってもサラリーマン、表の陽の当たる職業の人にしか見えない。


「あ、あの、ちょっと」


 踏み出した足が、ぐにゃり、と沈む。ローヒールの靴底がアスファルトに減り込み、饐えたタールの臭いが鼻腔を突く。


「兎歩で。もう現場も近いですから、止めが入ってます」


 理解するより先にその声に応じた。呼気を収め足を抜く、滑らすように左足につけて回しながら道をなぞる。


 ようやくそろそろ進みだして先を見れば、あの男はすたすた先へと進んでいく。あんな兎歩があるか。見間違いではない、私の知っているどの歩法ともまったく違う。だってまるっきり普通に歩いてるんだもの。


 ねっとりと周りの空気がまとわりつく、兎歩だけでもきついのに体全体がゼリーの中に押し込まれたように身動きがとれない。だるい。先導者を追おうにも一歩一歩が重過ぎて男との距離はどんどん離れていく。駆け出しとは言え、こんなところで遅れをとることの不甲斐なさにもがきはするものの体がいうことをきかない。


 不意に束縛が消えた。


 思わず前のめりに突っ込んだ私のからだを、いつの間に近づいたのか、あの男が両の手で支えていた。


「ずいぶん、きつそうですね。大丈夫ですか?」


「は、はぁ」


 返事もそこそこによろよろと立ち上がる。噴出した汗で背中にへばりついたブラウスが気持ち悪い。冷たい汗。


「なるべく私の傍を歩いてください。そうすれば影響は少ないはずです」


「ありがとう、ございます」


 とりあえず礼は述べたが、不信感はぬぐえなかった。



術師たち(表)シリーズ第一作目です。

最近のにくらべると文章が少し硬いそうです。自分でも確かにそうかなとも思います。


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