第8話 白い羽
俺のモノクルには、電離疾雷瞬光発動のログとその直前に外部からの霊子干渉をレジストしたログが記されていた。
それを見て、ようやく俺は魔人を見る。
「ん? お前。 俺になにかしたか?」
魔人は両手をこちらにかざしたまま、固まっている。
「そんな…そんなば、ば…馬鹿なバカなバカな!バカなァ!バカなァー! 僕のマリオネットが効かないだとぉ! 直接霊子に作用する僕の根源魔法だぞ! アニマシールドが貧弱な人間ごときにレジストできるわけがない! 出来てたまるか! それに終焉のドラゴンゾンビを一撃だと? 何だよ!お前は! なんなんだ!」
髪をかき乱し、目を見開き、無様にも慌てふためく魔人に、俺は静かに言い放った。
「俺か? 俺はお前らクソ魔人どもを根絶やしにする、そうだな、さしずめ死神といったところか。」
「人間風情がふざけるな! 魔人はこの世界の支配者だ!神だ!我々に敵うものなどいてたまるかぁぁぁああ!」
追い詰められた魔人は、活路を見出すべく血走った目であたりを見回す。
「もっと力が必要だ…もっと!」
そして、先ほど手放し数メートル離れて気絶している女の子に目を向けた。
『まずい! 柳二、少女を取り込むつもりじゃ!』
ばあちゃんの言葉を聞くまでもなく、会話の最中に準備しておいた”疾雷瞬光”を再度発動する。
連続使用のため、発動まで僅かなタイムラグが発生し加速スピードも先ほどよりもだいぶ遅いが、あれだけ離れていれば十分間に合うタイミングだ。
人質を手放した時点でお前の運が尽きたな。さんざん苦労させられたがこれでおしまいだ!
俺が魔人の最期を確信したその直前。腹に風穴を開けられ、倒れ伏し絶命したはずのドラゴンの眼孔がわずかに明滅した。
そして、大きく開かれたままであったその顎から、先ほど発動直前であったブレスの残り火が吐き出される!しかもご丁寧に魔人と俺の間を塞ぐ位置に。
「なにぃ!?」
このタイミングでのブレスにさすがの俺も躱しきれない。
いや、魔人を阻止するにはこのドラゴンのブレスを躱している余裕はない。ダメージ覚悟で突っ込むしかない!
しかし、疾雷瞬光の軌道上に横たわるように射出されたそのブレスは、さすがに終焉のドラゴンゾンビと呼ばれるだけはあり、柳二の疾雷瞬光による軌道を逸らすには十分な威力を持っていた。
「ぐぅ!」
ブレスに突っ込む直前でとっさに防御姿勢をとり丸まったばあちゃんを懐に抱え込む。
電離魔装でも完全に防ぎきれていない。表面だけではなく体の芯まで焼けるような痛みだ。
全身が焼きただれ体制を崩されながらもなんとかブレスを抜ける。
が、ブレスにより進路軌道がわずかにずれ、視界が開けた時にはすでに魔人の横を通り過ぎようとしていた。
まずい!そう思い、全力で手を伸ばすものの、電離魔装を纏った俺の指先は魔人にわずかに届かない。慣性の法則に従い勢いのまま直進しようとする俺の体が魔人から遠ざかろうとする。
魔人はそれにかまわず、その右手の鋭い爪を少女の首に伸ばす。
魔人の横を通り過ぎようとする自身の体を無理やりひねり、全力発動した身体強化魔法で進行方向を捻じ曲げれば、当然の帰結として体が悲鳴を上げる。
足首が折れ、ブチブチと腿の筋肉が断裂し、肋骨と背骨から不快な音が響く。
全身を強烈な痛みが走り抜ける。
「あぁぁぁ!」
それでもすべてを無視して俺は手を伸ばす。
僅かに指の先が魔人の肩を掠め削り取る……が、魔人の動きを止めるには至らない!
魔人のするどい爪が少女の皮膚を割き、ゆっくりと柔らかい首筋に爪が埋まっていく。
閃光の極みによってゆっくりと流れる時間の中で、俺はただそれを見ていることしかできなかった。
「くそォ! 間に合わない!」
俺がそう叫んだその時。
何かが魔人の腕を通り過ぎたかと思うと、まさに少女の首を切り落とさんとしていた魔人の腕が宙を舞った。 魔人は不可視の攻撃の余波で吹き飛ばされていた。
それを見届けた俺は疾雷瞬光の勢いを殺しきれずにそのまま転がり、崩落した瓦礫に突っ込んだ。
そして先ほどの無理な体制での身体制御とドラゴンブレスでズタズタになった体を引きずり、すぐさま瓦礫から這い出る。魔人が再び少女を狙う可能性があったからだ。
「ギャァァあ! 僕の腕が! 腕がぁ! 痛い痛いイタイ! なぜ腕が再生しない!? 今度は何だ!?」
見ると、魔人が千切れた腕を抑え、わめきたてている。
どうやら少女は大丈夫そうだと安堵するとともに、魔人の腕を吹き飛ばしたものは何だったのか?とすぐさま疑問に思った。
胸がざわつくのを自覚しながら、はやる気持ちでそれを探す。
吹き飛ばされ自身の腕を押さえうずくまる魔人の前方。
魔人の腕を吹き飛ばした何かが飛来したその先に、白い羽が1枚地面に突き刺さっていた。
その瞬間、胸の内に驚きと歓喜、困惑、期待、疑心、様々な感情が津波の様に押し寄せてくる。
「まさか、あれは…。 あの羽は!?」
そしてやけに早まる鼓動を聞きながら、羽が飛んできたであろう方向をたどった。
そして見つける。
「あぁ。‥‥信じていたんだ。」
『リン!?』
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