第5話 魔人の奥の手
「魔闘法― ”疾雷瞬光” !」
ドゴォン! 地面が爆発とともに陥没する。
音を置き去りにし、その瞬間には俺は人型と入れ替わるように正拳突きの体制のまま残心する。
そこに人型の姿はない。
疾雷瞬光は、瞬間的に強烈な体内電気信号を発生させ、驚異的な瞬発力を発揮する魔闘法奥義の一つである。
そのスピードはもはや肉眼でとらえることができないほどだ。
その驚異的なスピードで突きを放ったため、まるで人型のマジックキャスターと入れ替わるかのように柳二が残心のままたたずんでいるように見えたのだ。
マジックキャスターは腹に大穴を開け、はるか後方に吹き飛ばされて絶命している。
「ふぅ。こんなもんか。」
そう余裕を見せるが、疾雷瞬光によるダメージはすさまじく、立っているのがやっとというのが正直なところだ。
強力な技だが、まだまだ制御しきれていないなと自嘲する。
『全く、相変わらず無茶をしおって。 しばらくは制御演算を自己治癒に回すぞ。』
内心でばあちゃんに感謝しつつ、閃光の極み(アクセルビジョン)を解除して自己治癒に全魔力を回す。
俺は疾雷瞬光によるダメージを悟られないよう、わざとらしく額の汗を拭い、魔人の男を見上げて挑発する。
「遊びはこれで終わりか?どうした?まさかこれで終わりってわけじゃないだろ? もっと遊んでくれよ。何ならおまえ自身が付き合ってくれてもいいんだぜ。」
魔人は目を見開き、プルプルと震えながら何やら呟いている。
『は、はは…馬鹿な、ありえない。僕のかわいいペット達が。個々の能力はB級ハンタークラス、ましてや僕のコントロール下であれば集団としてA級に匹敵するはずだ。 それがたった十数秒足らずで全滅など!僕の作品が手も足も出ないなど・・・認められない!断じて認めてはならない。 何か制御エラーが発生したか・・・いや僕の作品は完璧だ。』
魔人はもはや自分の呟きが外に漏れていることなど気づいていない。それほどに動揺しているようだ。
『・・・そう。何かのトリックに違いない。 あのファイヤーアロー。 完全に着弾したはずが、曲がったように見えた。曲げられた?一度放たれた魔法を曲げるなど。・・・制御を奪ったのか? いや、それはありえないはずだ。 魔法は放たれた時点でルートと起爆タイミングを完璧に決めていたはずだ。 たとえ曲げられたとしても曲がる直前で起爆するはず。やはり何かしらの仕掛けを事前にしていたとしか・・・』
やつは相当に動揺している。
もう一押し挑発してあの女の子から引き離したいところだ。せめて、あの部屋から引きずり出さねーと。
「おいおい。さっきまでの余裕の態度はどこ行った? 天下の魔人さんが人族ごときにずいぶんと動揺しているじゃないか。 それより、直接遊んでくれるんじゃなかったのか? 早く降りてこいよ。」
俺の挑発など聞こえないかのように、魔人は相変わらずぶつぶつと何かつぶやいている。
『それでも、これ以上の手駒は出せない・・・どうする? 何をするにも原因が・・・なぜだ?何が間違っていた? あの方から聞いた話や奴の事件からおおよその戦闘データは予測していたが。 あの方はお怒り――もしれ―が――もうあれ―か―。』
一向に反応を見せない魔人に対してしびれを切らせた俺は、正面上段ののぞき窓に続くと思われる扉に向け一歩踏み出そうとしたその時。
『僕の作品は完璧だったはず。どんな卑怯な手を使ったのか知らんが、全くなんという不幸だ。 お前さえ、お前さえ来なければ。もう少しだったのに! もう少しであの方の神髄に迫れたというのに!口惜しいが、この研究施設は破棄させてもらうよ!』
先ほどまでの余裕は一切見せず、鬼のような形相でこちらをにらみつけてくる。
そして、手元の操作盤のボタンを叩くように押した。
途端に大きな地響きとともに、立っていられないほどの揺れが起こる。
『これは!? 柳二! オリジン濃度が跳ね上がったぞ。 何か来る!』
「この感じ……上か!」
感知するのが早いか、高い天井の中心がひび割れ見る見るうちに崩落する。
と同時にズゥシンと何か巨大なものが落下する音が響く。
この空間全体がつぶれたのではなく隠された上階の何かが落ちてきたようだ。
さらにその上にはわずかに月がのぞいている。天井が崩落し、地上にまで突き抜けたようだ。
「てめぇ。何をしやがった!?」
「もうお前は終わりだ! こいつを開放したからには、僕にもどうなるかわからん。この僕を怒らせたことを後悔して死ね。」
先程までの拡声器越しではなく、魔人の肉声が聞こえてきた。
そちらを見ると、いつの間にかのぞき窓から続く正面の扉から魔人が飛び出てくるところであった。
わきには脱力し生気を失った女の子が抱えられている。
こちらを警戒しながらもう一つの扉に向かっているようだ。
『柳二。奴に逃げられるぞ!』
「クソ!姑息な奴だ。あの子をまだ手放さない!
どうもあっちが脱出路みたいだな。奴が扉に入る時、視線を逸らしたその瞬間を神速で仕留める。疾雷瞬光もう一度行くぞ!」
『無茶じゃ!先ほどのダメ―ジが半分も回復していない。今の状態でもう一度発動するとおぬしの体がもたんぞ!』
「そうは言っても、四の五の言ってらんないだろ…!」
そうばあちゃんに反論しかけた時、崩落により舞い上がった土埃を切り裂くように巨大な柱のごとき何かが横凪に振るわれるのを右目の端でとらえた。
魔人に気を取られていたのと、先ほどの疾雷瞬光のダメージが抜けきっていないことで反応が遅れた。
気づいた時には大木のような巨大な何かが眼前を覆いつくしていた。
「ク!? 流水身」
とっさに深い伸脚のように身をかがめ、巨大な何かの力の受け流しを試みる。
が、その速度、威力は想像をはるかに超えており、俺は力を流しきれずボウリング玉のように転がり吹き飛ばされた。
そして反対側の壁に背中から叩きつけられめり込み、瓦礫に押しつぶされる。
「がはぁ!」
意識がもうろうとする中、俺は少女の悲鳴を聞いた気がした。
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