第4話 魔闘法(マーシャルウィザード)
「無幻水心流 ― 魔闘法 ” 閃考の極 ” !」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
フリッカー融合頻度という指標がある。
これは光点の点滅スピードを徐々に早めていったときに点滅を点滅として認識できなくなる(点灯していると認識する)速さを表す指標である。
人間の場合は60Hz程度である(1秒間に60回以上の点滅は点滅として認識できないという意味)が、ハエは300Hzと人間の5倍に達するとする研究もある。
いわゆるリフレッシュレートであるが、この数値が高いほど動きを鮮明にとらえることができる事を意味する。
例えば1秒間に60cmのスピード飛ぶ虫を人間が見た場合、1秒間に60枚の連続写真として認識することができる。写真と写真の間に虫は1cm進んで見えるが、その1cmの間は認識できない。
しかし、ハエが同じ虫を見た時、1秒間で300枚もの連続写真として認識できる。
つまり、ハエは人間が認識できない連続写真の間を5枚に分けて認知できる(写真の間に虫は2mm進んで見える)ということである。
これを言い換えると、ハエの方が人間より同じ1秒という時間に5倍も多くの写真を認知できるということで、5倍世界がゆっくり流れて見えるはずである。
人間がハエたたきでハエをたたこうとしたとき、ハエにしてみれば人間の動きは5分の1のスローモーションで見えているわけで、容易に躱されるのもうなずけるというものだ。
”閃光の極”は、魔法処理により自身の脳内および視神経に直接電気(電子)を作り出し、緻密に制御することで脳および視神経の信号処理能力を飛躍的に高め、結果的にフリッカー融合頻度を強制的に高める魔法である。
しかし、脳内に直接電気を発生させるため、脳を焼き切るリスクのある極めて危険な魔法でもあり、この魔法の演算・制御をひとみが補助することで初めて実現可能となっている。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
左から狼に似た魔獣1体、人型2体、右から人型2体が迫ってきている。
いずれも異形の化け物だ。
人型は元は人間だったのか、魔物だったのかそれすらもわからず、まるで子供が粘土遊びで目や手足、果ては内臓までも無造作にくっつけこねくり回したかのような、無残な姿だ。
一見するとまともに動けそうもないが、意外にも体の一部に同化させられた斧、ソード、槍を器用にあやつり進撃してくる。
右の人型の片方は、杖を持っており、見た目からは想像できないが、その身に内包する魔力量から察するにマジックキャスターのようであった。
こいつは最後だな。と心の中でつぶやく。
狼型は2メートルは在ろうかという巨体で、毛はほとんど抜け落ち、ただれた皮膚はところどころ腐りその下から肋骨や足の骨が見えている。
濁った眼の片方はあらぬ方向を向き、耳のあったと思われる穴のすぐ下に、飛び出すように第3の眼が突き出ている。 なんとも悪趣味な野郎だ。
魔獣、魔人崩れどもは連携の取れた動きで俺を囲うように動き、時間差で波状攻撃を仕掛けるように連携してくる。見た目に反して器用な連中だなと思う。
あの魔人のコントロール下にあるのかもしれない。
最初に襲い掛かってきたのは左から来た狼型の魔獣だ。
巨体にもかかわらず、素早い動きで這うように直進し、直前で跳躍し鋭い爪のある前足を横凪に振るってくる。
そのすぐ後ろには右腕を斧と一体化させた魔人崩れの人型が、直上に挙げた斧を振りかぶり今にも振り下ろさんと迫ってきている。
ソード持ちの人型はやや遅れて柳二の背後に回る動きを見せている。
その逆側、右からは槍を持った魔人崩れが、やや離れた位置から槍の射程内に今にも入ろうかという位置にまで来ている。
その後方でマジックキャスターと思われる人型が魔力を練り始めた。
これら敵の動きがすべてスローモーションで見える俺は、敵の全員の動きを把握するとともに、いかにあの魔人のすきを作り出すかを考える余裕すらあった。
俺の顔目掛けて狼型の左前脚の横薙ぎが振られる。
直撃する直前、右足を狼型魔獣の左前に半歩踏み出し、狼型の斜め横に移動。
狼型の前足を左手の甲で下から掬うようにいなしながら、そのままの流れで左手で狼型の前足を掴む。
それと同時に右手を狼型の足の付け根に押し当て、下から掬い上げながら左手の動きと合わせて左下に回転させ引き倒す。
俺は狼型の突進力に加えて俺の体重をすべて回転の力に変え、狼型の頭部を地面へ勢いよくたたきつけた。
「ギャッ」と短い断末魔を上げて狼型の頭がつぶれる。まずは一匹。
前を走る狼型が突然回転しながら地面に突進するように急停止しため、左から来た人型が振り下ろしていた斧は狼型が邪魔になり俺の目の前数センチのところを掠るように空振りした。
と同時に右から来た人型が背を向けた俺目掛けて槍を突き入れてくる。
電磁ソナーを常時発動し、背後から迫る人型の動きを完璧に把握していた俺は、狼型を地面にたたきつけた勢いをそのままにくるりと反転し突き出された槍を紙一重でかわしつつ、流れるような動作で槍を左手でつかみ引き寄せ奪うと、背後でたたらを踏んでいる斧の人型にその勢いのまま槍を突き入れる。
「紫電」
トリガーワードをつぶやくと左手から発生した紫電が槍を通って槍が突き刺さった斧の人型を焼き尽くす。2匹目。高出力の大サービスだ。
さらに同時に右の漆黒の籠手の甲から仕込み刀を吐出させ、槍を引き寄せ奪った勢いを利用し一歩槍の人型の懐に潜り込み、そのまま仕込み刀を心臓部に突き入れて一気に発動する。
「魔闘法 ― 奥義 ”融魂爆掌"」
魔法発動と同時に槍の人型が痙攣し、数瞬後体が膨れ上がったかと思うと内部から爆散した。汚い花火だ。
3匹目。
その時点で背後に回りこもうとしていたソードを持った人型が俺の右手側から袈裟切りの構えを見せていた。
同時に槍型の10m程度後方のところで魔力を練っていたマジックキャスターがファイヤーアローを放ってきたのだ。
前方からファイヤーアロー、右手から袈裟切りがほぼ同時に迫りくる。
どちらも避けがたい状況だが俺は右手側のソードの人型を完全に無視する。
正面から迫りくるファイヤーアローに改めて正対し、ゆっくりと両腕を広げて上げ円を描くようにそのまま眼前まで下げ、右腕をやや前に交差するように構えてつぶやく。
「魔闘法 ― 魔躁」
ファイヤーアローが俺に直撃するかに見えたその直前で右手の甲と左手の平を迫りくるファイヤーアローの側面に当て、右足を引きながら半身をずらしつつ、半円を描くように右側へいなしてやる。
ファイヤーアローはまるでジェットコースターのレールがそこにあったかのように直角に曲がり、直後その進路上にいたソードの人型に直撃し爆炎を上げた。
自身の魔法が完全にそらされたことが余程想定外だったのか、無表情ながらもマジックキャスターは動きを止めているようだ。
1秒ほどの自失の後、マジックキャスターは再度魔力を練り始めるが、遅い。
俺は腰を落としすでに全身の魔力を練り終えていた。
全身の毛が逆立ち、バチバチと雷光がほとばしる。雷光が足に集まり、直視できない光を放つ。
「魔闘法― ”疾雷瞬光 ”!」
その瞬間、ドゴォンという爆音を置き去りに、柳二の体がかき消えた。
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