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第3話 魔人



 薄暗い通路を進むと、正面に両開きの如何にも頑丈そうな門が見えてきた。


 探知する限り、中には反応がなかったためわずかに門を押し開け中に侵入する。




 そこは四方50m、天井高さ5mはある実験場のような大空間だった。

 向かって右側と左側にずらっとさびた鉄格子のはめられた扉が並び、その中から不気味なうめき声や禍々しい殺気が漏れ出ている。


 正面の壁には2つの扉があり、その上3m程度のところにしっかりとした鉄格子がはめられたのぞき窓が見下ろすように設置されていた。



「”彗心眼”でも霞がかって分かりにくいが、正面ののぞき窓の奥。ヤバい感じの奴がいるな。 この霊子結晶輝度(アニマルミナスティー)は…魔人クラスか?」



『既に気づかれておるな。気をつけるのじゃぞ。』



「ああ、わかってるさ。」





 左右の存在に気を配りながら中央付近まで進むと、突然広間に大音量で声が響き渡った。



『やあやあ。歓迎するよ、侵入者君。よくもまあ西側をあれほど荒らしてくれたものだ。お陰で我々の研究成果の大部分がお釈迦になってしまったよ。』



 この空間に響き渡る声。何かの仕掛けで拡声されているようだ。



 見ると、正面上段ののぞき窓のある部屋に明りがともり、中にいた人物が見えた。


 薄汚れた白衣をまとった痩せ身の背の高い男だ。


 肌は青白く、窪んだ目と目の下の黒いクマがあり、一見すると不健康そうな見た目と反して、その双眸はやけにギラついていた。


 男が青紫の長髪をかき上げると、その額の隙間から1本の捻じれた角が見て取れた。



 人を超越した見た目とこれほどの赤いアニマの輝き、そしてこれだけ自我を有しているとなると。




―― 魔人。




「それをやったのは俺じゃないな。人違いも甚だしい。」



『本当かい? 見ただけで分かるよ。その身のこなしと君から発せられるその食欲をそそる芳醇な香り。高純度のアニマを有している証拠だ。散々な目にあわされたが、君自身を捧げてくれるというなら十分に元は取れそうだ。』



 男がいかにも軽薄なしぐさで両腕を広げてみせる。



「俺は、ここについ先ほど連れ込まれた青いカラドリウスと赤毛の9歳くらいの女の子さえ連れ帰れれば、まあ、最低限満足するかもしれん。 どうだ? 知っているんだろ?」



 男は顎に手を当て、いかにも熟考している風を装い、言う。



『ああ。そういうことか。 西側に連れ込まれたカラドリウスには既に会ったんじゃないのかい? 女の子はほらここさ。』



 男の後ろに張り付けにされ気絶したあの女の子が照らしだされる。



 ここから見た限りでは目立った外傷は見られないが、額に汗を浮かべ高熱にうなされるかのように荒い息づかいで、時折苦しそうにうめき声をあげている。



「・・・お前。 何をした?」



 男はあいも変わらず薄笑いを浮かべたまま、人を見下した目つきで答える。



『それに答える前に、一ついいかな? さっきからもしやと思っていたのだがね、その灰色の長髪に両腕の深紅と漆黒の籠手、モノクル、そしてその青と黒のオッドアイ、頬の傷に白い首巻。 君もしかして”厄災(ディザスター)”かい?』



 その問いかけに動揺しそうになるが、それ以上にこの男の態度が俺をいらだたせる。



「だとしたらなんだ? いいから俺の質問に答えろ!』





 この距離では正確に判別できないが、彗心眼を凝らすと少女の霊子結晶(アニマ)の輝きが明滅している…これは不味いかもしれねぇ。



『おお!道理で!道理で! 僕の食欲をそそるわけだ!』



 男は、俺の回答に歓喜したように顔を愉悦にゆがませる。



『君の噂は聞いているよ。 ああ! 君を捕えれば、長年の研究成果に匹敵する、いやそれ以上の成果になる。 敬愛するあの方がどれだけ、どれだけお喜びになるか! クフフフフ!!キーィヒヒヒッ!今日はなんと素晴らしき日!』



 俺をどうにかできる前提で随分と好き勝手なことをいいやがる。


 そして、魔人はまるで朝食のメニューを思い出したかのように何のことなしに続ける。



『ああ、そうそう、彼女だがね、悲しきかな、クズで低能な人間族だからか、なかなか我々の崇高な研究に理解を示してくれなくてね。 本命はカラドリウスの方だったから、少し前にちょっとした魔人化実験に付き合ってもらったところだよ。』





 その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ赤になった。


 こいつ! 何の罪もない子をまるで実験動物のように扱いやがって!




 人の命を虫けらのように弄び、動かなくなればおもちゃでも捨てるように平然と命を摘む。

 俺の大事な人たちを弄び亡き者にした時と同じ。


 魔人どもは何処にいても不幸をまき散らしやがる!



 心の底から止めどなく怒りが湧き上がってくる。俺の体表の魔力が熱を帯びていくのがわかる。



「クズが。てめぇのようなクズは一度死んだ程度で許されると思うなよ!」



 俺の心情とは裏腹に、魔人はつまらないモノでも見るような目つきでつぶやく。

 


『人族風情がギャーギャーとうるさいな。ま、いいさ。折角の来客だ。もてなしをしないとね。 さっそくだけど自慢のかわいいペット達と遊んで行ってくれよ。そのあと、ゆっくりと遊んであげるよ。あの方に献上する前にねぇ!』




 そう言うと左右の鉄格子からガチャという音が響き、鉄格子が内側から押し開かれ、得体のしれない何かが飛び出してきた。



『柳二や、落ち着くのじゃ。 あの子が奴の手の内に在るうちは迂闊に手を出してはならん。 チャンスを待つのじゃ。あの子のアニマはそれほどルミナスティが高くない。霊子崩壊(アニマコラプサー)を起こすまではもうしばらくかかるはずじゃ。』



「ああ、わかってるよ!」



 体の芯に熱いくすぶりを感じながらも、のぼせた頭を無理やり理性で抑え込む。



「…ありがとう、ばあちゃん。少し頭が冷えた。だがのんびりもしてられん。サポート頼む。」



『もちろんじゃ!』








 魔力を素早く練り、数瞬後魔法を発動する。



「無幻水心流 ― 魔闘法マーシャルウィザード “ 閃考の極(アクセルヴィジョン) ” !」






 とたんに世界が止まったかのように、全てがゆっくりと動きだした。



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