第1話 割に合わない依頼
初作品、初投稿です。
お見苦しい表現などあるかと思いますがご容赦を。
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『電離魔装安定確認。 オールグリーン。極戦モードに移行します。』
「さっきのお返しだ、腐れトカゲ。 一億℃の超超高熱プラズマだ。精々ありがたく受け取れよ。」
俺は目の前の終焉のドラゴンゾンビに対峙する。そこに恐れは微塵も無く、ニヤリと口角を上げてその化け物に啖呵を切った。
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時は数日前まで遡る。
俺は榊柳二。
ある人を探して旅を続けている。
だが、今のところ何の手掛かりも見つけられていない。
そんなある日、ハンターギルドの掲示板の端につたない文字で書かれた依頼表が目に留まった。
通常ギルド経由の正式依頼ならきちんとしたフォーマットで記載されているが、それは子供が自らの手で書き上げた落書きのようなものだった。
依頼内容は迷子の捜索。
依頼主はしがない行商人の娘(8歳)。当然依頼料は子供のお小遣い程度のものだ。
ギルド職員はお情けでこの手書きの依頼表の掲示を黙認しているのだろう。
本来なら見向きもしない依頼だが、捜索対象が気になったのだ。
“捜索対象:ピーちゃん(青い小鳥)”
――
カラドリウスという半獣半魔の魔獣がいる。
人畜無害で小鳥の外見をしている。
色は通常は白だ。
俺が探している人物は、食いしん坊の丸々と太った青いカラドリウスを連れていた。
――
依頼主の女の子は穢れのないキラキラした丸い目で、栗色の髪を赤い髪留めで一つに結んだ、どこにでもいる普通の女の子だった。
話を聞くと、ある時宿の裏庭の野鳥用の餌台に丸々と太った青い小鳥が来るようになったという。
女の子はその小鳥を大層気に入っていて、お友達になったんだそうだ。
ある日庭の餌台が荒らされており、それから突然姿を見せなくなった。
心配していたさなか、つい1週間ほど前に宿の前を通りすぎる貴族の馬車の中で鳥かごに入れられたピーちゃんを見かけたというのだ。
「ピーちゃんはきっと悪い大人につかまっちゃったの。お兄ちゃん。ピーちゃんを助けてあげて!」
とのこと。
「お友達を取り戻してほしいってことか?」と聞くと、
「ピーちゃんは傷を治してくれた特別なお友達だから閉じ込めたらかわいそう。自由にしてあげられればいい。」
と大人顔負けの回答が返ってきた。
経緯は以上だが、カラドリウスの捜索となるとさすがの俺も相当に骨が折れた。
何しろカラドリウスは治癒魔法を行使するとされる希少種で、目が飛び出るような高値で取引される。
ましてや白以外の色となると固有種であるのは間違いなく、レア度でいえばAランク相当。
王都の上級オークションでも1年に1度出るか出ないかの際物である。
もし本物だとすると、それを捕まえた貴族さんは簡単には情報は漏らさないはずだ。
裏ルートもしくは政治の駆け引きの材料として貴族のつながりの一部に話を持っていくはずで、表には出てこない。
数日周辺の聞き込みを続け、とある1つの屋敷に目を付ける。
少し離れた宿で張り込むこと2日目、定期的に実施している長距離探知魔法に反応があった。
『む!? 柳二や。長距離ソナーにかすかに反応があるぞ。』
俺のマフラーを住処にしている、ハリネズミ風のオコジョ(この世界ではヘッジストートと言うらしい)が俺の片眼鏡を覗き、ドヤ顔で伝えてくる。
「ビンゴ。得意げに言っているけど、ばあちゃんの能力じゃないじゃん。」
『うるさいのう。確かに柳二の魔法をトリガーにはしてはいるが、ワシのアニマを経由して情報処理しておるのだから、ほぼワシのおかげじゃろ。それにばあちゃんではなく、ひとみさんと呼べと言っておるじゃろ。』
「わーったよ、ひとみ婆さん。」
『婆さんがよけいじゃ!まったくどこのひとみ婆さんじゃ・・・』
「おっと反応が動いたぞ。追うぜ。」
俺のかけているモノクルは情報表示媒体であり、俺の魔法行使の際の演算なんかも補助してくれる優れものである。
そこに映る先ほどとらえた点が屋敷の裏手に移動し、やがてそこそこの速さで動き始めた。
このスピードは馬車か。
となると取引先への交渉か、取引後の受け渡しか。
そう思考しながら音もなく、風もなく、闇にまぎれて後を追う。
できるだけ見つからずにターゲットを確保するために移動中を狙おうと思っていたが…屋敷から距離があったため、まだ馬車までは距離がある。
それにこの馬車やけに護衛が多い。
移動した先で潜入して確保するのがよさそうだ。
そう考え、馬車の後をつけて走ると、数分もしないうちに馬車は鉄格子に囲まれたいかにも怪しげな建物に入っていった。
俺は路地裏に素早く身をひそめ、門を覗く。
門柱に教会のシンボルである五芒星が描かれている。
「おいおい。移動中に強襲すべきだったか・・・にしてもこの施設、パン工場ってわけでもなさそうだ。教会が絡んでいるな。どうもきな臭くなってきた。」
『全く気付かれずに侵入は難しそうじゃな。出直すか?』
年寄の口調のくせに、かわいいつぶらな目をした顔を向けて真面目に話しかけないでほしい。
ついつい撫でてしまう。
ひとみばあさんがつぶらな瞳を細くしてゴロゴロと猫なで声を鳴らしている。
「いや。いまさらながら嫌な予感がする。カラドリウスは魔法詠唱なしで治癒魔法を行使できる数少ない存在だ。特に教会はこの手の能力に固執し、人体実験を繰り返しているなんてまことしやかにささやかれているのは知っているな。」
『ああ、この世界の治癒魔法能力はほぼ教会が独占しておるからな。特に無詠唱での治癒魔法となると、少なくとも他には渡さんだろう。あの貴族はピーちゃんを高値で教会に売り払ったということかの。』
「いや、問題はそこじゃねえ。奴ら、外見ただの青い小鳥にしか見えないカラドリウスをどうやってカラドリウスであると見分けることができたのか引っかかっていたんだ。青い小鳥を見て、普通はカラドリウスだとは思わない。」
『つまりどうゆうことじゃ? 見つけたやつが熱心な野鳥研究家だったってことか?』
「そうじゃない。この依頼の依頼主。あの女の子はピーちゃんが傷を治してくれたと言っていた。」
ばあちゃんが首をかしげて続きを促す。
「…こう考えるとどうだ? もし、その現場を第3者が見ていたら、そいつはピーちゃんがカラドリウスである可能性に気づくだろう。だからさらった。だが、色が違うことでどうしても本物かどうか疑念が残る。 そしてこう思うのさ。“もしかしたら女の子自身が治癒したのではないか”とな。」
『となると…あの女の子が危ないのう。』
「ああ、いけ好かねー教会のやることだ。奴さんが教会に連絡してから数日はたっているはずだから、既に手を打った後だろう。やつらこういうことだけは異常に仕事が早い。」
ふぅ。と一息つき、つぶやく。
「― まったく割に合わない依頼だ。」
『とか言いながら顔はにやけておるぞ。』
「そうか? ま、この3年間探し続け、ようやく見つけた手掛かりだ。 しかも教会がらみとくれば期待もするさ。」