第9話 求婚されました
夕方、アリーセは目を覚ます。
感覚的にはだいぶ魔力も回復したことだと思われる。
やはり、睡眠を取ると魔力は効率よく回復することができるようだ。
「アリーセさん、起きてますか?」
ダイン様の声が扉の向こうから聞こえて来る。
「はい、起きてます」
「今、少しお時間よろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
アリーセが返答すると、ダイン様が部屋に入って来る。
アリーセはベッドから起き上がり、ソファーに座った。
「体調はもう大丈夫なのか?」
「はい、もう魔力はだいぶ回復しましたので問題ありません」
「それで、お話というのは何でしょうか?」
そう言うと、ダイン様がアリーセの前で片膝を突く。
「短い間だが、あなたのことを見させて頂きました。精霊術の圧倒的な力もそうですが、目の前に消えかかっている命があれば決して見逃さないその強さ。そして、そんなに大きな力がありながらも決して驕らないお人柄、感銘を受けました。私と、結婚してください」
そう言って綺麗な手をアリーセに差し出した。
「この剣が届く限り、あなたが何処にいようがお守りすると誓いましょう」
貴族というのは大抵、15歳までには婚約者を決めているものである。
しかし、ダイン様はまだ婚約者を決めていなかった。
それには何か理由があるのかとは思っていたが、そんな立ち入ったことは聞けない。
容姿も優れていて、王宮の聖騎士ともなれば、婚約の申込みは数多あっただろう。
それなのに、ダイン様はアリーセを選んだ。
それは、部下を助けてもらったからとか、圧倒的な精霊術の力があるからでは無い。
1人の女性として見て、アリーセの人柄や命に向き合う信念に惹かれたのである。
「はい、喜んで」
アリーセはダイン様の手を取った。
自分でも驚くほど自然にだ。
「嬉しいよ。内心、断られたどうしようかと思ってた」
「自分でも不思議なんですけど、ダイン様とならこれからの人生を歩みたいと思ったんです」
家族から虐げられていたアリーセに、優しく手を差し伸べてくれたのはカルトに続いて2人目だ。
何も無くなったアリーセを理由も聞かずに受け入れてくれたのだ。
この人となら幸せになれるのかもしれない。そう思った。
「私のこと守って下さるんですよね?」
「ああ、必ず守り抜こう」
「そう言ってくれると安心ですね」
アリーセは笑みを浮かべた。
「もう、家には帰れないんだろ?」
「ええ、そうですね」
「なら、ずっとここにいればいい。君がそばに居てくれると安心するんだ」
ダイン様は前髪を弄りながら口にする。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えます」
「こちらこそ、これからもよろしく頼む」
ダイン・エステールが婚約したという情報は思ったより早く貴族や王族の間に出回ることになる。
それだけ、ダインは国の中でも重要な人物なのであった。