第7話 白眼病
王宮の医師でも見抜けたなかった症状をアリーセは一発で見抜く。
「白眼病だと!?」
陛下は驚きの声を上げた。
驚くのも無理もない。
白眼病は難病であり、症例もまだ少ない。
「はい、この症状は間違いないです」
「おい、白眼病の特効薬はあるか薬屋に聞いてくれ!」
陛下はすぐそばに居た従者に指示を出す。
白眼病はその特効薬が無いと治らない病とされている。
回復魔法などでは効果がないし、市販の解熱ポーションでも治らない病だ。
しばらくしてから、従者が戻って来る。
「陛下、白眼病の特効薬は王都の薬屋には置いてないそうです」
「そんな……では、どうすればいいのだ……」
陛下は絶望に近い表情を浮かべている。
白眼病は1万人に1人発症するかしないかの、珍しい病気だ。
その特効薬を常備している薬屋は中々ないだろう。
「王女様が発熱してどれくらい経ちますか?」
「そろそろ半日といった所だな」
「では、そろそろ限界ですね」
白眼病は丸1日経つと失明する危険がある。
半日経っているということはもう一刻の猶予もない状況だ。
「アリーセ殿、何か方法はありませんか!?」
陛下が必死に訴えてくる。
「方法は、あります」
「本当か!?」
「確証はありませんが、私なら出来るかもしれません」
普通の魔法や精霊術ではどうしようもない。
しかし、アリーセの精霊術は普通ではないらしい。
一般的な精霊術は下級精霊の力を借りて発動する。
しかし、アリーセの場合は上級精霊の力を借りて、精霊を具現化することまで出来る。
どうやらアリーセは精霊に気に入られてしまったらしい。
光、風、炎の上級精霊とは契約済みだ。
その中でも光の精霊とは1番仲がいい。
光の精霊は癒しの精霊術を得意とする。
だから、アリーセは人より癒しの精霊術に優れているのだ。
「可能性があるなら、頼む! 娘を救って欲しい」
「分かりました。やってみます」
アリーセは王女様が寝ているベッドの横に立ち、目を閉じる。
『光の大精霊と契約せし者が願い奉る。ここは聖域にして我が領域。我が理に従うのであれば、かの者癒しの御手を』
すると、アリーセの後ろに長い金髪の美しい女性が現れる。
宙に浮いている事からただの人間ではない事が伺える。
『白眼病か?』
アリーセの頭の中に直接訴えて来る。
「うん。治せる?」
『我に任せよ。魔力を貰うぞ』
「お願い」
そう言うと、王女様の体が光に包まれる。
それと同時にアリーセの魔力がごっそりと持って行かれるのを感じる。
数分で王女様を包んでいた光が消えた。
アリーセが再び王女様に触れると、熱が下がっているし、リンパの腫れも治まっている。
呼吸もだいぶ落ち着いたようだ。
今は気持ちよさそうに眠っている。
「アリーセ殿、君は一体……」
「ただの治癒師ですよ」
そう言うと、アリーセは思わず片膝を地面に突いた。
「アリーセさん、大丈夫ですか?」
ダイン様が心配そうに体を支えてくれる。
「大丈夫です。少し、魔力を使い過ぎました」
なにしろ、本来なら精霊術では治せないものを無理やり治したのだ。
その代償として魔力を半分近く持っていかれた。
「陛下、アリーセさんを座れる場所に」
「ああ、わかった」
ダイン様に支えられ、応接間へと戻ってきた。
陛下の好意によって、ソファーで横になってもいいと言われたが、しばらく経てば魔力も回復していく。
明日の朝には完全に回復することだろう。
「娘を救ってくれてありがとう。感謝する」
「いえ、目の前で苦しんでいる人を見たら放っておけませんから」
「ありがとう。アリーセ殿には褒美をあげたい。何か欲しいものはあるか?」
「それなら、お仕事を紹介してくれませんか? 私、今無職なので」