第4話 聖騎士団長
アリーセは馬車に戻る。
「行きましょうか」
「大丈夫でしたか?」
「はい、問題ありません。全て解決させて来ました」
「あなたは、一体……」
セルバンは驚いた表情を浮かべている。
「まあ、そのうち分かるかもしれませんよ」
「そうですね。詮索はやめましょう」
セルバンは御者台に座ると、馬に鞭を入れる。
馬車は再びゆっくりと進み始める。
そこから、王都までは特に問題は起こらなかった。
セルバンが、魔獣や盗賊が少ないルートを選んでくれたのである。
「お疲れさまでございました。王都に到着致しました」
「ありがとうございます」
アリーセは馬車を降りて、王都の地に降り立った。
辺りは、少しずつ暗くなりはじめていた。
「聖騎士団長様のお屋敷は……」
カルトからもらった王都の地図を頼りに、移動する。
「ここですね……」
聖騎士団長の屋敷はすごく大きかった。
確か、爵位も持っていると聞いていたのでそれなりの貴族なのだろう。
「お嬢さん、何か御用ですか?」
屋敷を見上げていると、警備の兵に声をかけられる。
「あの、こちらのダイン様にお会いするために参りました、アリーセと申します」
アリーセは鞄の中からカルトに書いてもらった紹介状を出すと、兵に見せた。
「確認いたしますので、少々お待ちください」
警備兵がそう言って、しばらくしてから燕尾服を身に纏った初老くらいの男性が現れた。
「アリーセ様ですね。お待ちしておりました。大体のことはカルトから聞いています。どうぞこちらに」
門をくぐって屋敷の中に入る。
「私、エステール家の家令を務めております。ストーグと申します」
「よろしくお願いします。あの、カルトとは知り合いなんですか?」
「ええ、以前同じ屋敷に仕えていたことがあります」
「そう、なんですね」
カルトは色んな屋敷を渡り歩いてきたと言っていた。
だから、経験だけはあると。
「こちらで、お待ちください。旦那様ももう少しで来られますので」
「わかりました」
お屋敷の応接間に通された。
アリーセはソファーに座ると、なんとなく部屋の中を眺める。
豪華な調度品が並べられ、このソファーもテーブルも高価なものだと伺える。
しばらく、そのまま待っていると、再び応接間の扉が開かれた。
「お待たせしてしまって申し訳ない」
美しい銀髪は短く切り揃えられ、前髪は少し重たくなっている。
中性的な顔立ちだが、しっかりと肉体は鍛えられているのが窺える。
アリーセは立ち上がる。
「ダイン・エステールだ」
「アリーセと申します」
「どうぞ、座ってください」
「失礼致します」
アリーセは再び、ソファーに浅く腰を下ろす。
「遠い所、お疲れだろう。事情は聞いている。大変だったのだな」
「お気遣い、感謝します」
「ところで、一つ聞きたいのだが、アリーセと言ったな?」
「はい、そうです」
ダイン様はアリーセの名前を確認する。
「私の部下が賊の襲撃にあって、大怪我をした。しかし、そこに現れた謎の治癒師によって完全に回復したという報告を受けた。その者は名をアリーセと言ったそうだ。もしかして、君が……?」
「はい、その通りです。私が治癒の精霊術を使いました」
「精霊術だと!? 魔術ではなく?」
精霊術は珍しいものだ。
魔術で治癒するのがこの世界の定石である。
「私は、精霊の力を直接借りることが出来るらしくて」
「それは、すごい力だぞ。とにかく、お礼を言わせてくれ。部下の命を救ってくれてありがとう」
そう言って、ダインは頭を下げた。
「頭を上げてください。目の前に消えかかっている命があったら全力で助ける。それが、治癒の力を授かった者の使命だと思っていますから」
「貴女は、強いです……」
ダインがそう言ったのが僅かに聞こえた。
「今日はゆっくり休んで下さい。どうか、自分の家だと思って」
「ありがとうございます。お世話になります」
こうして、アリーセの新しい人生が幕を開けるのだった。