第2話 王都ヴェルセラに
街の外れにカルトが知り合いの御者の馬車を紹介してくれた。
カルトは最後まで、アリーセの味方をしてくれた。
「君がアリーセさんだね」
シワ一つない真っ白なシャツに、ループタイ。
そして、革のベストを着た壮年の男性が優しい声で言った。
「はい、そうです。王都まで、よろしくお願いします」
そう言って、アリーセはぺこりと頭を下げる。
「カルトの知り合いだとは聞いていたけど、礼儀正しい子だね。私は、セルバン。王都へは観光かい?」
「ま、まあ、そんな所です」
「そうかい。王都はいい所だよ。それじゃあ、出発だ」
セルバンに手を貸して貰い、馬車へと乗り込む。
そして、馬車はゆっくりと進み始めた。
蹄鉄の音が規則正しく聞こえてくる。
相当、馬の扱いに慣れていることが御者を見るに伝わってくる。
「この辺りは、魔獣も盗賊も居ないからゆっくりしていいな」
「はい、ありがとうございます」
アリーセはただぼーっと窓の外を眺めていた。
外出なんて、ここ半年はしていなかった。
ずっと、屋敷に軟禁状態だったのだ。
これからは自由が待っている。
そう考えただけで、私の心は踊っていた。
「王都まではあとどのくらいですか?」
「順調にいけば半日といった所ですね。余裕を持っても今日の夜には到着すると思いますよ」
「そうですか。ありがとうございます」
特別、急ぎの旅という訳ではない。
のんびりと進んでいけばいい。
あれから四時間ほど経過しただろうか。
特に何の問題も無く馬車は進んでいた。
その時、馬車は急に停車した。
ずっとスムーズに進んでいたので、アリーセは驚いた。
「どうかしましたか?」
「前方で何かあったようです。馬車が停まっているのですが、何かおかしいですね」
道幅は十分にあるので、馬車を追い越して進めるのだが、セルバンは馬車を止めた。
長年の経験からの対応なのだろう。
「ちょっとだけ、魔法を使ってみましょうか」
《感覚拡張》
アリーセは魔法を使って、五感を強化する。
この魔法は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を爆発的に強化する魔法である。
基礎魔法なので、そこまで難しいものではない。
「この匂い……」
「どうかされましたか?」
「血の匂いです……!」
それは、間違いなく人間の血の匂いだった。
研ぎ澄まされた嗅覚は、通常の人間が感知できない匂いも感知することができる。
アリーセは反射的に馬車を降りた。
「アリーセさん、外はまだ危険が……!!」
セルバンの制止はアリーセの耳には届いて居ない。
「こ、これは酷い……」
前方の馬車でアリーセが目にしたのは血まみれになって、倒れている騎士たち3人の姿だった。
その服装から見るに、王国の聖騎士だろう。
「今、助けますからね」
幸い、全員まだ息がある。
その呼吸も弱くなっているが、今ならまだ間に合う。
「ついに、実践で使う時が来てしまいましたね……」
アリーセはパチンと手を叩いた。