第18話 治癒師の責任
戦場からダインが医療テントへとやって来た。
「大丈夫ですか? お怪我とかされました?」
「いや、私は大丈夫だ。魔獣もだいぶ片付いた所だ」
作戦開始から三時間が経過しようとしていた。
予定通りなら、もうそろそろ終わる頃である。
「そうなんですね」
「それより、ありがとう。アリーセのおかげで騎士が騎士として生きていくことが出来そうだ」
「すみません。私、騎士さんのことなんて全然知らないのに」
アリーセの中にある騎士の像は、本で取り入れたのがほとんどである。
実際に騎士と話したのは、ダインが初めてだったたりする。
「いいえ、あなたが言ったことは正しいと思います。あなたは彼の傷だけでは無く、心も救ったんです。治癒師の
鑑ですね」
そう言って、ダインは微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」
そこから、アリーセは治癒を続ける。
大体10人以上は治癒したことだろう。
悪魔の祝福によって出現した魔獣は、全滅させられた。
「アリーセのおかげで、被害を最小限に抑えることが出来た。ありがとう」
「私は、治癒師としての使命を全うしたに過ぎません。それに、救えなかった命もあります」
今回、救えなかった人たちもいる。
魔獣の攻撃によって即死してしまった騎士たちである。
「あなたは、生きてる者を見てください。これから、あなたに救われる命を」
そう言って、ダインはアリーセを抱き寄せた。
「はい、分かりました……」
「すみません。つい、抱きしめたくなってしまいました」
アリーセを解放したダインは前髪をいじりながら口にする。
「では、帰りましょう」
魔獣の群れは片付けることが出来た。
それも、被害は最小限に。
医療テントをでると、そこには騎士団の人たちがいた。
「皆、あなたに救われた騎士たちです。あなたは、これだけの人間の命を救ったんです」
そこには10人以上の騎士が立っていた。
「あんなに自由に動けたのもアリーセさんが居るって思えたからだ」
「本当にあなたは聖女様だ」
皆、口を揃えて言った。
「ありがとうございます。でも、無茶はダメですよ。治癒精霊術も万能ではありませんから」
「「「はい!」」」
騎士たちはアリーセに敬礼した。
そして、馬車で王都に向かって出発する。
道中、魔獣などが出現することもあったが、ダインたち騎士が蹴散らしてくれた。
日が傾く前には王都に到着することが出来た。
「お疲れ様でした」
ダインの手を借りて、アリーセは馬車から降りる。
「私は、今から陛下に報告に行きますが、一緒に来ますか?」
「はい、お供します」
「では、行きましょう」
王宮に入り、応接間で陛下の到着を待つ。
しばらくして、陛下が入って来た。
「ご苦労だったな」
「いえ、こちらが今回の報告書になります」
ダインは馬車の中で作っていた報告書を陛下に渡した。
「これに、間違いはないのか?」
「はい、全てそこに書いてある通りです」
「驚いた。これほど負傷者が少ないとは……」
今まで、悪魔の祝福で数百人規模の死傷者が出ていたという。
今回は死者一名、軽症者が30名だ。
「全て、アリーセのおかげです。死者が出てしまったのは悔やまれますが」
「うむ、その通りだな。死亡した騎士の名は?」
「マインという者です」
「分かった。彼は殉職として、2階級の特進とする。後で正式に書面を送ろう」
この国には公務によって死亡した場合の昇進と、残された家族には国からの補償があるのだ。
「アリーセさん、今回は本当にあなたがいてよかった。あなたにも謝礼金は出そうと思う」
「そんな、私は当然のことをしたまでで」
「ここで何も出さないのは王としての名が折れる。受け取ってくれぬか?」
「陛下がそこまでおっしゃるのなら」
「ありがとう。2人ともゆっくり休んでくれ」
陛下への報告を終えると、アリーセたちは王宮を後にするのであった。
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