第13話 男爵家のその後(ざまぁ)
宮廷に新たな治癒師が誕生したことは、公表される。
当然、貴族間でもその情報は回っている。
宮廷に仕えるということは、その国の看板を背負うことになるのである。
「あなた、これを見てください」
「ん? これは王宮からの通達か」
ガールン・サイン男爵、アリーセの父親の耳に入るのもそう遅くは無かった。
「新しい宮廷治癒師が誕生したそうです。しかも、称号持ちの」
「それは、めでたいことじゃないか」
国王陛下が認めた称号持ちの宮廷治癒師が誕生したということは、国家にとって大きな戦力が加わったことになる。
「問題はそこじゃありません! 新しい宮廷治癒師の名前です!」
男爵夫人が声を荒げるようにして、名前の部分を指差す。
そこには、『アリーセ』と書かれていた。
ガールンは目を擦って確認する。
しかし、そこには確かにアリーセと書かれている。
家名は伏せられているのか、家名が無いのかは分からない。
アリーセという名前も珍しいというわけではない。
同名の者がいるかもしれない。
「これは、アリーセなのか……」
ガールンは表情をこわばらせる。
アリーセを家から追い出して数日でこの通達。
あまりにもタイミングが出来過ぎている。
「本当に、私の娘なのか……」
「そんな訳ないでしょ。お姉さまが宮廷治癒師だなんてあり得ないわ」
アリーセの義妹、アルセが部屋に入ってきて言った。
こちらも、信じたくないといった様子だった。
「おい、カルトを呼べ!」
ガールンは執事のカルトを呼びつけた。
「お呼びでしょうか、旦那様」
「これについて調べろ! 大至急だ」
ガールンは王宮からの通達書をカルトに投げつけた。
カルトはそれを拾うと内容を確認する。
そして、カルトは僅かに口角を上げた。
「何を笑っている! 貴様、このこと何か知っているのか!!」
「失礼いたしました。早急にお調べいたします」
そう言って、カルトは部屋を出る。
「お嬢様、やってくれましたね。いや、あなたなら出来ると思っていましたよ」
カルトはすでに全てを見抜いていた。
ここに書いているアリーセは、間違いなく自分が仕えていた主人。
アリーセ・サインであることを。
「お嬢様、もう少し待っていてくださいね」
誰もいない空間でカルトは宙に向かってつぶやいた。
カルトはもうこのサイン男爵家にはとっくに見切りをつけていた。
そして、待ち侘びた一番の好機が巡ってきた。
そして、ガールン男爵は知ることになる。
自分が虐げ、家を追い出した娘のアリーセはこの世界で最高峰の治癒師であること。
どれだけ大きなものを失ってしまったのかを。
父として貴族として、その地位を失うほどの問題に発展するなど、この時はまだ知る由もなかった。
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