満開の桜の下には死体が埋まっている
「馬鹿な奴」
部屋に戻った僕はそう呟くと大きく伸びをした。
見た目こそ瓜二つの僕と桜。でも、性格も能力も正反対。活発で成績も良く何をさせても百点満点の桜、一方、人見知りで要領の悪い僕。そんな僕に早々に見切りをつけた父親は、桜を息子として、僕を娘として育てるなんて無茶を思いついた。
当然上手くいくはずもなく、中学生になった頃から性別を偽ることに無理がでてきた僕は、病気と称して屋敷に閉じ込められることが増えていった。
そして、先日。やっと自分の計画の破綻を悟った父親は更にとんでもないことを言い出した。性転換手術をさせると。
反対した僕とは違い桜は父親の提案に大賛成だった。そして言ったのだ。
「これで名実ともに私が春久ね。安心なさい。あんたの面倒はちゃんと見てあげるから」
勝ち誇ったように告げる桜の姿に頭の中の何かがぷつりと切れる音がした。
気が付いたら、目の前で桜が血を流して倒れていた。
そこからの機転と行動力は我ながら目を見張るものがあった。自作の脅迫状で町のポンコツ探偵を巻き込んで架空の家出話をでっち上げる。
もちろん父親にはすぐにばれた。
でも、娘の家出と息子の殺人。どちらの不名誉を採るかは火を見るよりも明らかだった。むしろこの件で父親は僕の危機対応能力を見直したらしい。結果オーライというやつだ。
ちなみにあと数日もすれば桜の家出の噂がたつ手筈になっている。これは父親の手回し。本当によくやるよ。これで父親も立派な共犯者だ。
「さぁて、邪魔者はいなくなった。後継者は僕だ!」
誰もいない部屋に僕の高らかな笑い声だけが響き渡った。
◆◆◆
探偵は大きな勘違いをしていたのだ。
山一つ分ほどの広大な敷地をもつ屋敷。そこに桜の木が一本しかないわけがない。
そう、やはり『満開の桜の下には死体が埋まっている』のだ。
目指せイヤミス!を目標に書いたのですがいかがだったでしょうか?
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