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事のあらまし、仲の良い双子

「なんじゃそりゃ? 庭の桜の木を掘って帰ってきただけってか?」


 数日後。

 探偵事務所に油を売りに来ていた幼馴染が呆れたように言った。可愛くも賢くもない幼馴染ならいるのだ。ちなみに男性。


「そんなわけないだろ!」

「失礼します。探偵さんはご在宅ですか?」

 言い返そうとした僕はその爽やかな声にニヤリとして幼馴染に囁いた。


「さぁ、真相解明のお時間だ」

「はぁ?」

「まぁ、見ていてご覧……はい、中へどうぞ」

 僕は事務所の入り口に立つ少年に声をかけた。


「初めまして春久さん」

「えっ? どうして春久さんがこんなおんぼろ探偵事務所に!」

「煩いよ」

「こちらの探偵さんから興味深いお手紙をいただきましてね」

 僕の送った茶封筒を見せて爽やかに笑う少年。黒曜石の瞳は桜さんに良く似ている。そして、少し掠れた声は瓜二つ。何を隠そう、彼は桜さんの双子の弟、春久さんだ。


「僕の推理は当たっていたようですね。あぁ、では、お久しぶりです、桜さん、の方がよかったかな?」

「全てお見通しというわけですか」

「おい、どういうことだよ。何を送ったんだ? わかるように説明してくれよ」

「送ったのは髪の毛だよ。燃やされる前に少し失敬していたんだ」

 腐っても探偵。証拠品をみすみす目の前で失うような馬鹿な真似はしない。


「では哀れな幼馴染のためにも答え合わせといきましょうか」

 事務所のボロ椅子を勧めると春久さんは爽やかな笑顔のまま頷いてみせた。


「先日いらしたのは桜さんではなく、春久さん、あなただ。そして桜さんはもうこの町にはいない」

「えっ? じゃあ、その髪の毛は桜さんのもの?」

「そういうこと」

「おい、それってまさか」

「ちょっと、誤解を招くような言い方はやめてくださいよ」

 青褪める幼馴染に春久さんが苦笑する。全く幼馴染の早とちりには参ったものだ。


「桜さんは家出をしたのさ。そして春久さんは共犯者」

 言葉の意味が飲み込めずにキョトンとしている幼馴染とは違い、春久さんが感心した顔で僕にたずねる。


「どこで僕が桜のふりをしているとバレたんですか? 僕らは瓜二つなのに」

「最初からかな」

「まさか、いくら探偵さんが優秀だとしても、それは盛りすぎでしょう」

「いえいえ。ヒントは着物に不似合いなストールです。着物は体型をごまかすには最適だけど喉元が露わになってしまう。いくら瓜二つでも喉ぼとけが丸見えでは台無しだ。それにそろそろ声変わりかな? 上手くストールの理由にしたつもりでしょうが、それがまずかった」

「どういうことです?」

「本当に体調が悪いなら使用人たちが外出を許すはずがない」

「まいったな」

 そう言って肩をすくめる春久さんの態度が全てを物語っていた。でも親切な僕は幼馴染のために少し言葉をつけ足すことにした。


「二人で仲良く外出と見せかけて入れ替わり。春久さんは僕の事務所に、一方、桜さんは駅に直行。僕はまんまと時間稼ぎに使われたのさ」

「おい、家出が本当なら今頃大騒ぎだろうよ」

「そうでもないさ。むしろ大騒ぎにしたくない場合だってある。そうだな、桜さんには心に決めた人がいて親が持ってきた見合いをすっぽかして家出、なんてどうでしょう? 世間にバレれば両親も見合い相手も面子丸つぶれ。隠したいはずだ」

「見合い? まだ十五歳だぞ」

「そういう世界もあるってことだよ」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ幼馴染と僕に春久さんが降参と言ったように両手を上げる。


「本当になんでもお見通しなんですね」

「あの日のあなたは桜の木そっちのけで時間ばかりを気にしていましたからね」

 屋敷の中を気にしていたのは時計を見るため。だって着物姿では時計を持つわけにもいかないからね。


「それで、今、桜さんは?」

「叔母の家で謹慎中です。でも、今回の件で僕は桜を見直したんですよ。引っ込み思案で親の言うことを聞くばかり、お人形のようだと思っていたのにやる時はやるんだってね」

「さて、答え合わせはこんなところかな」

 春久さんの言葉に僕はこの事件の幕引きを宣言した。のだけど……


「最後に無粋な話を一つだけ」

 そう言って鞄に手を入れる春久さんをそっと止めながら僕は答えた。

「髪の毛はお渡ししたもので全てですよ。この件を口外するつもりもありません。馬に蹴られて死ぬのはごめんなんでね」

「ありがとうございます。でも受け取ってくださいね。父からです。持って帰ると僕が怒られるので」

 そう言って封筒をテーブルに置くと僕の返事を待たずに春久さんは事務所を去っていった。


「すごっ! 焼肉でも行く?」

「えっ、あぁ、うん」

 春久さんの去った事務所で封筒の中身を確認した僕は歓声を上げた。でも返ってきたのは幼馴染の気もそぞろな返事。


「どうした?」

「いや……俺と妹って歳離れているだろ。桜さんと春久さんと同い年なんだ。桜さんも春久さんも小学校までは地元の公立だったから、妹から話を聞く事もあってさ」

「うん」

「確か活発なのって桜さんだったんだよ。大人しいのは春久さんの方」

「勘違いじゃない? 桜さんって病弱で中学に入ってからは学校も休みがちだって聞いたことあるし」

「俺の勘違い……か?」

「そうだよ。それより焼肉行こう。桜さんの将来を陰ながらお祝いしようぜ」

「お、おぅ」


 こうして桜とともにやってきた事件は無事に幕を引いたのだった。

もちろんこれで解決!ではありません。

あと一話続きます。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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同じタイトルで全く違うテイストの作品も書いています。こちらも短編なのでぜひ!
「満開の桜の下にはシタイが埋まっている」
― 新着の感想 ―
[良い点] 自力で桜さんの謎は解けませんでした。 [気になる点] ぜんぜん別の『謎』なんですが、蜜蜂様の2作品は公式サイトの検索画面に出ないんですね。 「満開の桜の下には死体が埋まっている」「満開の桜…
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