第1話「平穏」
少年は夢を見た。それは幼い頃から何度も見た夢だった…。
豊かな自然に囲まれた泉。そのほとりで可憐な少女がこちらに微笑みかけていた。白銀の長い髪が風になびき、太陽に照らされた泉と共に眩しく輝いていた。
少女が何か話しているようだが聞き取ることは出来なかった。少年が近づくと少女がこちらの手を取り駆け出す。泉を離れ森の中を進んでいく。木々が光を遮り、薄暗かった。しばらく走ると少女が前方を指さした。どうやら森を抜けるようだ。
2人で改めて互いの手を握りしめる。決して離さないように。そして意を決して森を抜け出す。瞬間、視界が光で包まれた。少年は気がつく。
――いや、違うこれは羽だ。純白の鳥の羽が大量に落ちてきてたんだ…。
その中の1枚の羽を目で追う。しかしそれは地面に落ちた瞬間にまるで石の結晶のように変化して割れて消えてしまった。
少年はハッと少女の事を思い出し、顔を上げる。しかしそこには少女はもういなかった。あるのは先程とは打って変わって荒廃した世界。空は黒雲に包まれ、高層建築が倒れあちらこちらで車両や家屋から火災が発生している。
煙や火花で視界が悪い中辺り一面に人が倒れてるのがわかった。死んではいないようだがその目に光はなく、まるで中身が無くなったように倒れ込んでいた。
歯を食いしばり胸の中からトライアングル状のペンダントを取り出し、右手で強く握り締めた。そして目を閉じる――。
少年の夢はいつもここで終わる。窓からはやけに眩しい光が差していた。
――朝か…。またあの夢だ…。やけにリアルだしこれの後はいつも体全体が疲れる…。それにしてもあの女の子は誰なんだ…?あの荒廃した世界は…?あんなところ見た事もないのに…。
枕元に置いてあるペンダントを手に取る。金色のトライアングル状。夢に出てくるものと全く同じ物だ。これだけは無くす訳にはいかない。少年の大切なお守りだった。
少年の名は星翔ケン。地球の首都『ビギニング』にある銀河鉄道高等学校に通う17歳である。今は首都に隣接している街に叔母である星翔セナと二人暮しをしている。
ケンはベッドから起き上がり、身支度を始めた。するとリビングの方から声が聞こえる。
「ケーン!そろそろ起きなさーい!」
セナ叔母さんの声であった。急いで支度を済まし、リビングへ向かう。
「おはようセナ叔母さん!」
「おはよう!丁度朝ごはんもできたとこだから食べちゃって!」
そう言ってセナ叔母さんは仕事の準備を始めた。ケンは食卓に付きトーストを頬張る。窓からは住宅街の中で木々が揺れ、鳥のさえずりが聞こえる。
――穏やかな日だ。平穏とはまさにこういう日の事を指すんだろうな…。
そう考えながら窓際の写真立てを眺めた。写真にはまだ2歳のケンを抱いて笑っているセナ叔母さんの姿があった。
セナ叔母さんはケンの父の妹で、今は2人の住む家の1階でカフェ『マグネ』を営んでいる。お客1人1人との出会いを大切にする、明るく社交的な人だ。そのおかげか地域の人にも愛されカフェも繁盛している。
セナ叔母さんは、ケンが15年前に父を亡くし独り身だった所を引き取ってくれたそうだ。その後女手1つでケンを育ててくれている。そんなセナ叔母さんの事をケンも尊敬し、誇りに思っていた。大人になったらセナ叔母さんのような人になりたいと。
朝食を平らげたケンはカバンを持ち通学のため1階へ向かう。丁度セナ叔母さんが店をオープンしたしたところだった。
「じゃあそろそろ行ってくるよ。今日は銀河鉄道高等学校の特別講習が『ビギニングステーション』であるから友達と参加してくる!」
「わかったわ。友達と都会へお出かけなんていいじゃない!そういう繋がりは大切にしなさいよ?いい、人と人は―」
『――引かれ合う――』
ケンはセナの台詞に被せてそう言った。
「だろっ?ハハッ昔からのセナ叔母さんの教えだもんね。わかってるよ。ちゃんと大切にする!」
そしてケンは玄関を出てスピーダーを起動し、足を掛けた。
「そう!なら良かった!気をつけてね。」
「うん!行ってきます!」
セナ叔母さんとの挨拶を済まし、ケンはスピーダーを走らせる。
青空が広がり風が微かに暖かい。気持ちの良い天気だった。家を出てすぐにメガネの男性とすれ違う。ケンも見慣れた顔だった。セナ叔母さんのカフェの数いる常連さんの1人だ。今日も朝からコーヒーを飲みにやってきたのだろう。
――セナ叔母さんの努力の証だな…。こういうのも人と人は引かれ合う、というものだろうな…。
そう感じながら銀河鉄道高等学校に向かった。これから先もきっとある新たな出会いへの期待に胸を少し踊らせながら…。
初めて書くので文章がおかしいところが多々あると思いますがご了承くださいm(_ _)m