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6、ウルティア

 彼女が住んでいた場所は、魔獣が発生するダンジョンの近くだった。

 彼女ウルティアの一族は、言われない事実によって、大陸北東部の極寒地帯へ追いやられた。

 ウルティアの一族は、戦闘力が高い。

 その身に魔力を圧縮して大岩を砕ける程に身体能力を飛躍できる。

 その力によってウルティアの国では、ウルティアの一族が国の守護としての要になっていた。

 だが、とある貴族達の策略によって、ウルティアの一族は反乱の疑いが掛けられて、このダンジョンの近くへ放逐された。


 氷雪のダンジョンから発生する氷結魔獣達をウルティアの一族は狩る事で生計を立てる事になった。


 ウルティアの一族が持つ戦闘力によって魔獣の被害は少ないが…それでも国の中心、首都へ戻る事はない。


 白い髪のウルティアは、今日も父達と共に魔獣を討伐する。

 寒く吹雪が荒れる大地、そこで生きるのに必死だった。


 ウルティアは、厳しい生活を過ごし、国への恨むを募らせて鬱屈していった。

 自分達を放逐した国に仕返しをしようとする者達もいたが…それを一族の長達が止めていた。

 その理由は明白だ。どんなに力があっても数の暴力には勝てない。

 ウルティアの一族が持つ力は、魔力による飛躍的な身体能力向上であって遠距離からの攻撃が出来るワケではない。

 遠方からの魔法攻撃に曝されれば無力だ。

 ウルティアの一族が放逐されたのも結局は、国が遠距離からの魔法攻撃を中心とした軍事態勢に移行したからだ。

 遠距離からの攻撃によって兵士の損失を防ぐ。

 要するに近距離特化の時代が終わった事でもあった。



 ウルティアは、国を憎んで鬱屈する。

 今まで国や民を守ってきたのに、この仕打ち。

 生活が苦しい。

 魔獣の被害も無傷ではない。死者だって出る事がある。

 悔しかった。

 

 そして、魔神災害が勃発した。

 膨大な数の氷結魔獣達が攻めてくる。

 どんなに力が飛躍するウルティアの一族でも応戦は厳しかった。

 そして、国からの支援を要請しても来なかった。

 いや、見捨てたのだ。


 ウルティアの前に巨大な氷結魔獣が現れ、殺される寸前に機神が現れて氷結魔獣を一撃で倒した。

 ウルティアと同じ白髪と黒毛が混じる男ブラックであるギンジだ。


 機神に乗って堂々とするブラックにウルティアは魅入られてしまった。

 ブラックが機神から降りてウルティアに手を伸ばす。

「大丈夫か?」

 十代後半のウルティアより倍近い顔立ちブラック。

 その手をウルティアは握った。


 その後、ウルティアはブラックから白き機神を授かり、そして…魔導機兵の部隊を一族の若い者達と編成した。


 そして、氷結魔獣達との戦争が勃発する。

 ウルティアの国のトップ達は、魔神災害によってウルティアの一族が絶滅するのを願ったが…現状は変わった。

 二十メートルの魔導機兵達が巨神とは思えない程の俊敏さで氷結魔獣達を殲滅する。

 そして、氷結魔獣達がウルティアの一族の町から離れて国中に広がる。

 巨大な氷結魔獣達に魔法使いや騎士は無力だった。

 そこへ、ウルティアの部隊が来て、白く輝くウルティアの機神を先頭に、氷結魔獣達を殲滅する。

 二十メートルの魔導機兵達、同じ大きさの氷結魔獣達。

 その戦いは、圧倒的だった。

 ウルティアが氷結魔獣達を一刀に裂き、他の魔導機兵達も徒党を組んで氷結魔獣達を倒していく。

 ウルティア達の魔導機兵は特注だった。

 ウルティアの一族が持つ身体能力向上を使い、魔導機兵の俊敏性と力を倍増させる。

 ウルティアの部隊は、一騎当千が群がる最強の軍団になった。


 ウルティア達の活躍によって国での評価が一変する。

 巨大な氷結魔獣達の前では、魔法使いや騎士など塵芥だ。

 そして何より周辺国でも魔導機兵の活躍が目立つようになった。


 ウルティア達は認められていった。

 その隣にはブラックがいた。

 ブラックはウルティアに告げる。

「君は素晴らしい戦士だ。だけど…優しさもある。普通なら見過ごした連中なんて切り捨てるのに…ウルティア、君は助けた。君は…本当に愛情深い人だ」

 

 それ聞いてウルティアは、心が温かくなる。

 自分を理解してくれる人がそこにいた。


 ウルティアは国で守護将軍としての地位を授けられた。

 かつて、一族が持っていた名誉を再び取り戻した。

 そんなウルティアに国の王子が近づく

「今までの不義、済まなかった。我らの過ちである。許して欲しい。そして…再び共に手を取り合いたい。ウルティア…君を…私の伴侶として向かい入れたい」


 ウルティアは考える。

 王子に求婚される前に…ブラックから

「ウルティア、オレは…ウルティアの傍にいた。だから…ずっと隣にいて良いか?」

 その答えをウルティアは止めていた。


 そして、ウルティアの父は

「ウルティア、お前は一族を代表する戦士だ。一族の事を頼みたい」


 ウルティアの手が震えた。

 一族の為か…それとも一人の女として…。

 取った結論は。

「殿下…その言葉、受けようと思います」

 一族の長として…。

 だが、何かがウルティアの心に重くのし掛かった。


 その後、魔神災害を討伐する為に北部のダンジョンへ向かい魔神を討伐した。

 その討伐を終えた当日に、ブラックが

「ウルティア、幸せになれよ」

と、ブラックが告げて去っていた。


 その背中をウルティアは見詰めていた。

 その手は硬く握り締めている。

 自分の中にある衝動を抑えていた。



 ブラックが去る三日前、ブラックとウルティアの父が会話をしていた。

 ウルティアの父が

「依頼、ご苦労だった」


 ブラックが肩をすくめて

「いいえ、これも仕事ですので」


 ウルティアの父はブラックを凝視して

「今後、娘とは永遠に出会わないでくれ」


 ブラックは首を傾げて

「はあ…そのつもりですが…」


 ウルティアの父は怪しむ顔で

「もし、気持ちが変わり…娘と結ばれようとするなら…」


 ブラックはフッと嘲笑して

「そうなりませんでしたよね。だから? 何が不安なんですか?」


 ウルティアの父は鋭い顔で

「君は、本気で娘を愛していた。だから…」


 ブラックが肩をすくめて

「ええ…愛していましたよ。でも、そうならなかった。これが結果ですよ」


 ウルティアの父は淀むように

「君には未練がないのかね?」


 ブラックは「はははは」と笑い

「そんなの男として気持ち悪いでしょう。未練なんて何の役にも立たない」


 ウルティアの父は頷き

「そうか…分かった。では、依頼料は…予定通りに」


 ブラックはお辞儀して

「毎度、ありがとうございます。では…最後に綺麗に消えてみせますので」


 ウルティアの父は

「しかし、その顔はウルティアに知られている。もし」


 ブラックが顎を上げて顎下を摘まむと皮がはがれて伸びた。

「わたくしも、本当の素顔でいるワケではありませんので。ご心配なく」

 そう、ブラックもシルバーやブルートと同じく年齢を経ている顔立ちの偽装をしていた。

 英雄の仕立屋として関わった者達は、誰もギンジの素顔を知らない。

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