3,ギンジ
シルバーこと、ギンジは会社がある国に帰ってくる。
髪を掻き上げて銀髪にしていた魔法を解除して元の黒髪に戻し
「ふぅ…疲れた…」
と、告げてビル型巨大城の会社のドアを潜る。
会社の名前は、魔導産業アダマンである。
会社アダマンの魔法エレベーターで屋上へ向かうと、会長しか入れない最上階へ到着する。
そう、魔導産業アダマンを作ったのはシルバーと偽名を使うギンジだった。
ギンジが自室である会長室でくつろいでいると、会長室直結のエレベーターから一人の女性が現れる。
頭部に角を持つ魔族の女性、ギンジが出ている間、会社を運営するエルザが
「お帰りなさいませ。首尾は?」
ギンジが手を振って
「見事に嫌われてきたさ」
エルザが溜息を吐き
「何時か…背中から刺されますよ」
ギンジは笑みながら
「機神も与えて英雄にしたのに、殺される理由はない」
エルザは呆れ気味に
「女の恨みは怖いですよ」
ギンジが嘲笑い気味に肩をすくめ
「それよりも、売上げはどうだ?」
エルザが
「ギンジ様が英雄を仕立てたお陰で魔導機兵の売上げが上がっています。今後、兵器から日用品の魔導機兵へ移行するのも時間の問題でしょう」
ギンジが渡された資料を見て、嬉しげに笑み
「上出来だ…」
エルザが
「今後、担当した彼女の国では、ダンジョンから発生する魔物及び魔神は、魔導機兵によって対処される筈です」
ギンジが
「我が社の売上げも上々って事だな」
エルザが
「幼気な女の子を英雄に仕立てて魔導機兵を売らせる事にする作戦には、少々…同意しかねますが…」
ギンジが肩をすくめて
「おいおい、オレはチャンと相手を選んでいるぞ。人を傷つけてものし上がろうって考えている勝ち気な女の子をな…」
エルザが
「好きだとか、愛しているとかして、相手に惚れているように偽装して機神を授けて、英雄に仕立てて、全てが解決したら一緒になろうなんて約束して破局させる…悪徳の極みです」
ギンジが呆れ笑いで
「オレは結婚詐欺師のように相手から奪っていないぞ。育て与えている。犯罪者じゃあない」
エルザが
「女の子にとって、与えてくれた男性が一緒になろうってしてくれた事がどんなに嬉しい事か、分かりませんか?」
ギンジが首を傾げて
「おいおい、エルザ…お前、そんな女だったか? この会社を立ち上げた時にオレを存分に使い倒してのし上がってやるって言っていたよな…」
エルザが溜息を吐き
「ええ…言いましたよ。お陰でこの国や周辺国の軍事力を裏からコントロールできるまでになりましたから…」
ギンジが頷き
「上々、オレは機神の力を広めたい。エルザは偉くなりたい。お互いがWin-Winな関係だ」
エルザが深い溜息を吐いて
「何時か、本当に後ろから刺されて女の恨みを思い知った方が良いですよ」
ギンジが頷きながら
「エルザの言いたい事は、分かる。愛しているだ、好きだが、大事なんだろう。そんな言葉に何の力がある? 行動しない事に意味は無い。所詮、結果でしか人は判断しないからな」
エルザが持っていた別の資料をギンジに投げつけ
「ホント、何時か、女から後ろを刺されろ!」
ギンジは投げられた資料をキャッチして「はいはい」と告げている間にエルザは去って行った。
ギンジは皮肉に笑みながら
「愛じゃあ世界は救えないよ」
と、ギンジは真理を告げつつ、投げられた資料を見返す。
そこには次の英雄の仕立屋の仕事に関する情報が載っていた。
「さて、次の仕事だ…世界を救いに行きましょうか…」