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2,英雄の仕立屋

 四半世紀も生きたオレの仕事は、英雄の仕立屋である。

 とても簡単な仕事だ。

 魔神によって苦しんでいる国々を回って英雄を仕立てる事だ。

 これまで仕立てた英雄は数知れず。

 なぜ、そんな事が出来るのか?

 とても簡単な答えだ。

 オレには、神のスキル、機神創成がある。

 これによって、オレは英雄と決めた人物に巨大な力を持つ機神を与える事ができる。


 そして…今日も一人の女を英雄に仕立てる。

 とても簡単なお仕事だ。


 今回の英雄である女は、アリスだ。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 アリスは黄金の機神に乗って大地を汚す魔神と戦っていた。

 その後ろには、アリスに付き従う仲間と、オレであるシルバーがいた。

 仲間達は魔法技術の粋を結集して作られた魔導機兵に乗って共に戦っている。


 二十メートルの機神と魔導機兵達。

 その目の前に雄叫びを上げて攻撃する魔神。

 魔神は歪な人型で全身から無数の蛇の触手を生やして立ち向かう者達と戦う。


 アルスの黄金機神が手にする剣で触手のベビ達を切り落とす。

 再生されるであろうそこは、再生されず。

 魔神は、雄叫びの業火を放つが、シルバーが乗る魔導機兵に偽装した機神が楯の魔法を発動させて防ぎ

「今だ!」


「おう!」

と、アリスは黄金機神を飛翔させる。

 黄金機神の背中から黄金の翼が生えて飛翔、アリスの怒声と共に輝く機神の剣によって魔神は両断された。


 両断された魔神は、崩れ落ちて消えて行く。

 アリスの仲間が

「さあ、アリス…勝利の…」


 アリスは黄金機神の剣を掲げて

「ここに討伐を成した!」


 同じく戦っていた魔導機兵達に勝利の凱旋を告げる。


 シルバーは、終わった…と肩の力を抜いた。


 魔神討伐の栄誉をアリスが冠する。

 これにて、この国に新たな英雄が誕生した。

 新たな英雄伝説がこの地に誕生する。


 その後、国の首都でアリスの功績を讃えようと国中の貴族や重鎮達が来て、首都の王城で華やかな祭典が開かれる。

 お決まりの英雄のエンディング。


 そのパーティー会場の華は、アリスである。

 黄金の髪、煌びやかな青いドレス、何より十代後半の若い乙女。

 彼女を射止めようと貴族の子息が群がる。


 それを遠巻きに見詰める銀髪のオッサンのシルバーは、ふ…と皮肉に笑む。

 何度目の光景だろう。

 お決まりのエンディング。まあ、いいさ…。

 そこへ、一人の貴族の男が来る。

「ご苦労だった」

と、貴族の男が告げる。


 シルバーが手にするカクテルを飲み

「仕事なんで…」


 貴族の男が

「君に手配して正解だった。アリスは…これで幸せに暮らせるだろう。いや…助かったよ。アリスは遠縁とはいえ、我らの一族の一人だからね」


 シルバーが怪しく笑み

「これでアンタも面子が立つし、この国の貴族達も鼻が高い。王に至っては名誉も手に入る。オレは…金が手に入る」


 貴族の男が

「分かっているな…後は?」



 それから三日後、シルバーが静かに旅立とうとする。

 朝靄の街中を進むシルバーの背中に

「おい! なんで出て行くんだ!」

 寝間着姿で息を荒げているアリスがいて、その後ろにはアリスの機神があった。

 どうやら、急いで来たらしい。


 シルバーが背を向けて

「さよならだ」


 アリスが声を荒げる。

「何がさよならだ! お前…私と一緒にいてくれるんだろう!」


 シルバーが呆れ笑みを向け

「アナタは英雄です。平民である私とは身分が違う」 


 アリスが絶望した顔を向け

「本気で言っているのか? だってあの時、私とずっと…だから…私は…」


 シルバーは笑みながら右手にとある魔法を発動させる。それは録音した音声を再生する魔法だ。

 その音声は…アリスだった。

「冗談じゃあない。この力は、アタシだけのモノ…。シルバー?

 ふざけるなよ。アイツなんてアタシがのし上がる為の駒なんだから…

 ええ…アタシは、王妃になるのよ。

 アイツは、シルバーはアタシにゾッコンだから裏切るなんてないわ。

 あんなオッサンのお嫁になんて誰がなるか! 

 機神を配るだけの道具のくせに、アタシ様に惚れるなんて、身分違いよ。

 アタシは、英雄アリスよ!」


 アリスが青ざめる。


 シルバーは笑いながら

「オレが知らないとでも思ったのか? お前にとってオレは、機神っていう資源を寄越すだけの駒だろう。何が愛しているだ。終わったら一緒になろうだ…ふざけるな」


 アリスは声を荒げて

「そんなデタラメだ! 魔法で作った合成だ!」


 シルバーはアリスの機神を指差し

「アレは、オレが作った機神だ。だから、オレは…お前用にチューニングする為に様々な情報を記録してあったんだよ。もう…その必要はないがなぁ…」

と、再び背を向けて

「じゃあな…お前を愛していたなんて…最悪だったよ」


 アリスが

「裏切り者! アタシを捨てるのか!」


 シルバーは背を向けたまま

「お前は、オレを駒としか見ていなかった。それが事実だよ。じゃあね、英雄様」


 アリスは去って行くシルバーを見詰めるしか出来なかった。

 シルバーが消えた後、アリスはその場に膝を崩した。

 そこへ、例の貴族の男が来て

「アリス様、突然…どうしたのですか?」

と、心配を装う。

 

 貴族の男は、内心で笑む。全ては…計画通り。

 これでアリスは簡単に墜ちやすくなった。スムーズにこちらが提案するこの国の王子と結ばれるだろう。

 貴族の男は、つくづく思う。

 英雄の仕立屋の計画は完璧である…と。

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