1、アリス
アリスとシルバーであるギンジの出会いは、何て無い事だった。
アリスは、とある貴族の一族の末端として生を受けた。
認知はされてはいたが…所詮は末端。その本家である貴族達から相手にされていなかった。
そもそも、アリスの生まれは父親の愛人が母親なのだ。
私生児。それがアリスだ。
だからこそ、鬱屈して行くのは目に見えていた。
アリスは、母親が病気になり治療費を本家である父親へ求めても、下女が生んだ子供として相手にされなかった。
母親を亡くしたアリスは、世の中を憎み始めた。
どんな手段を使ってでも成り上がってやる…。そしてアタシを拒絶して母親を見殺しにした父親を潰してやる…と。
だが、世の中は優しくない。
十代半ばのアリスは、生きて行くのに必死で、望みと遂げるなど、不可能だった。
そして、最悪な事に…アリスのいる国に魔獣が大量発生する事態が起こった。
ダンジョンとされる魔力が集まって出来た巨大な渓谷から、魔獣達があふれ出してアリスの国を混乱に陥れた。
ダンジョンは世界中の至る所に存在する。
その中心は、巨大な魔力を発生させる物質で出来た山が存在する。
魔力が濃いので、それによって魔法生命、魔獣が発生して偶に人界へ降りて被害を与えるが、大体は退治される。
だが、数十年に一度、ダンジョンの奥地で留まった魔力によって魔獣を大量に発生させる魔神が誕生する。
魔神災害とされる魔獣の大量襲来によってアリスの国は疲弊していった。
魔獣の災害がアリスのいる町へ襲来して、アリスが魔獣に殺されそうになったそこへ、シルバーが来た。
金髪のアリスと対にある銀髪の男性シルバーは、機神とされる絶大な力を持つ巨神を使って魔獣達を倒して町を救った。
そして、シルバーはアリスを見初め、アリスに機神を授ける。
それはアリスの金髪と同じ輝きを放つ目映い黄金の機神だった。
アリスが授かった機神の力は絶大で、どんな魔獣だろうと圧倒した。
アリスが機神に乗って現れるだけで、魔獣の戦場は一片する。
黒が白に変わるようにアッと言う間に魔獣達は滅ぼされる。
アリスは機神の力に取り憑かれる。
そんなアリスをシルバーは褒める。
「流石だ。こんなに機神を扱える逸材なんてあった事がない。君は天才だ」
事実、アリスには戦闘に関する才能があった。
アリスには、のし上がろうとする向上心と、鬱屈した気持ちがあった。
それがアリスを急成長させる。
そんなアリスを疎ましいと思う者達、貴族達もいたが…その声は直ぐに消え去る。
魔獣という脅威に飲まれて消えた。
アリスの機神の活躍によって、アリスの国に機神のような兵器の有用性が証明され、魔法と騎士から魔法を砲撃と使う魔導機兵、白兵戦を行う陸戦魔導機兵が外国から入るようになる。
だが、それでもアリスの機神の力は群を抜いていた。
なぜなら、アリスのもたらされた機神の力は…魔導機兵のオリジナルなのだから。
魔導機兵は、機神の模造品。
それでも、魔導機兵一つで魔獣を数十体も滅ぼせる。
魔獣を圧倒して英雄になるアリス。
そんなアリスをシルバーは褒め讃える。
「君は素晴らしい、選ばれた人間だ。君に機神を授けて良かった。君は万年の逸材だ」
アリスはシルバーに問う。
「どうして、私を選んだの?」
シルバーはウソの優しい笑みを向け
「君を見た時に、君の目に宿る強さにやられた。君に惚れたんだよ。こんなおじさんに好意を向けられて、気持ち悪いかもしれないが…。自分勝手で申し訳ない…君を好きでいさせてくれ」
アリスは上機嫌になった。
ゴミのように扱われた日々から、愛される日々に変わった。
シルバーは一日の間に何度もアリスを褒める。
「おはよう、君の顔を見られて今日は、良い日になりそうだ」
「アリス、君は強くて美しい。君のような女性に今まで出会った事がなかった。私の人生は君に出会うまで損をしていたようだ」
「アリス、最高だ。素晴らしい判断だ」
「アリス、君は正しい」
アリスは有頂天になる。そして…もっと有頂天になる事態が起こる。
自分を捨てた父親が自分を本家の跡取りにしようとした。
アリスの周りに美男の貴族の子息達が取り囲む。
美しい、素晴らしい、まるで世界で一つの華だ。
甘い言葉でアリスに愛を囁く。
アリスは、満悦だった。
今まで踏み躙って来た連中がひれ伏して自分に愛を囁くのだから。
事実、アリスの容姿は母親譲りで美しかった。
スラム時代は薄汚れて見るも無惨な姿だが…。
そんなアリスに、この国の王子が声を掛ける。
アリスを求めたのだ。つまり、将来はこの国の王の妃となる約束を持ちかけたのだ。
アリスは、喜びのあまりに即答しようとしたが…ワザとじらすように
「ごめんなさい殿下、少し…お話を…待って下さい」
王子は少し項垂れるも微笑み
「分かったよ」
アリスはその話を持ち帰って、自宅の宮殿にあるベッドに飛び込み、にやけて暴れる。
そして、嬉しげに夕食を取っている時に、共に食事するシルバーが
「アリス、将来の事…どう思っている? オレはアリスと…一緒になりたいなぁ…」
アリスはそれを聞いて少し困惑気味に
「ごめんなさい。その…」
シルバーは頷き
「分かった。急ぎはしない。どんな返事をされても、オレはアリスのそばにいるから」
その夜、アリスは宮殿にある機神の格納庫で自分の黄金機神を見上げて
「冗談じゃあない。この力は、アタシだけのモノ…。シルバー?
ふざけるなよ。アイツなんてアタシがのし上がる為の駒なんだから…
ええ…アタシは、王妃になるのよ。
アイツは、シルバーはアタシにゾッコンだから裏切るなんてないわ。
あんなオッサンのお嫁になんて誰がなるか!
機神を配るだけの道具のくせに、アタシ様に惚れるなんて、身分違いよ。
アタシは、英雄アリスよ!」
それを隠れてシルバーは聞いていた。
一週間後、アリスはダンジョンへ向かい魔獣を発生させる魔神を討伐して、真の英雄になる。
そうなれば終わり。