砂漠と海
老人はそこにひっそりと倒れ込んでいた。とうにからからになった喉を鳴らして、ただ、ううと呻るばかりであった。迷い人であった。この枯れた果ての砂漠の中で、幾日も迷っていた。食料はとっくに尽きて、水すらも久しく飲んでいない。じきに訪れる死をただ待ちぼうけていた。砂が寄せては返し、彼のしわしわになった皮膚を飲んでゆく。程なくしてこの海に埋もれる事が分かった。ただゆっくりと、その潮の匂いと共に深く、より深くまで沈んでいった。老人はすっかり見えなくなって、そこには砂漠が残った。砂漠以外何も残らなかった。夜が来て、うんと冷えた。