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これが現実。

未定と言ったが、一話分は書いていた!

なので投稿しておきます。

皆さんの反応お待ちしております!

 


「─ぉ…──…ぃ──きこ──るか?」



 現在鈴木と山田はキーンとした耳鳴りが頭に響いていた。至近距離の爆発によって一時的な聴覚障害に陥っているのだ。

 男が二人に話し掛けているようだが、件の二人は聞こえていない。



「猶─ない。も─一発い─ぞ。耳─塞いで伏せ─い─さい」



「「へ!?」」



 そんな状況でも事態は待ってくれない。元より本能のままに動いているゾンビは逸早く踵を返し、爆発元の近くにいる男に群がっていく。

 それに対し、男は落ち着いた様子で煙草を口に咥えて何かを用意しているようだ。


 そんな様子を他人事のように眺めていた二人だが、辛うじて肝心な部分が聞こえ、男が用意したものに咥えていた煙草を近付けた事で間一髪事態を把握する事が出来た。



「ダイナマイト!?」


「伏せるでござる!」



 男が導火線に火を付け放り投げると同時に、山田は座席の影に隠れるように屈み込み、鈴木は咄嗟に気絶している女性に覆い被さるようにその身で庇っていた。



 ドオオオオオオン!!


「痛っ痛っ痛ぁっ!」



 先程と同じ様に響く轟音。群がって行ったゾンビのほぼ中心で爆発したそれは、綺麗にその辺りのゾンビを軒並み爆散させていた。弾け飛んだゾンビの腕が、足が、頭が、狙い定めたかのように鈴木の背中に当たっていたが、女性を守ったのだ、彼も本望であろう。


 暫くして土煙が晴れ見晴らしが良くなると、ブロロロロと低音を響かせながらバイクが近寄ってくる音が聞こえてくる。



「平気か?」



 短い言葉だが、低く色気のある声が二人の耳に届く。



「咄嗟の事で、すまなかったな」



 そんな大きな声量ではないのに、体の芯にまで響いてくるようなとても心地の良い声だった。

 助けてくれたのに真っ先に謝罪をしてくる気遣い、そしてそれが感じとれる優しい声音。

 間違いない、凄くいい人だと二人は直感した。

 返事をしなきゃ、そう二人が判断し身を起こそうとした瞬間──



「きゃあああああ、犯されるうううう!!」


 ゴッッ!!


「がっ」



 先程まで気絶していた女性が目を醒まし、起き抜けとは思えないほど迅速かつ華麗なフォームで鈴木の顎にアッパーをぶちかました。

 不意の一撃、綺麗に決まったアッパー、そして放物線を描いて飛んでいく鈴木。

 その光景を目の当たりにしていた山田と男は惚けたようにただ飛んでいって地面でバウンドする鈴木を目で追う事しか出来なかった。


 庇ったのに、行動はイケメンだったのに、何故殴られたのか、何がいけなかったのか。

 答えは彼女しか分からない、いや皆薄々とは気付いている、見た目が原因だ、と。

 イケメンなら許された、惚れられていたかもしれないシチュエーションだ。

 だが鈴木は違う、ハゲでチビでオッサンで、イケメンでもない。だから、殴られたのだ。


 これが現実なのだと、山田は未だに地面に横たわったまま動かない鈴木を見てとても悲しくなった。ヤ無茶しやがって。



 女性はアッパーのフォームで暫し残心を取ったまま、素早く辺りに視線を配り状況を把握した。

 真っ直ぐに引き伸ばされていた腕が静かに下ろされた時には、状況把握は完了しており、流れるような動作でフォークリフトから降りると真っ直ぐに男の元へと駆け寄った。



「助けて下さい!」



 この中で誰の元が一番安全なのか、誰に着いていけばいいのか、瞬時に判断したのだ。

 世界が崩壊しても尚、女性の強かさは健在であった。


 抱き着いてきた女性に対し男は困ったように優しく苦笑いし、そして山田へ向き直って声を掛ける。



「彼女は私が責任をもって安全な場所へと送り届けよう。それと彼は──大丈夫か?」



 忘れてた!と全身でそう語るようなリアクションを見せた山田だが、すぐ様心配そうな表情を浮かべフォークリフトから降りて鈴木の元へと駆け寄った。

 いまだ横たわったままの鈴木の横に跪き、背中側から優しく声をかける。



「す、鈴木殿……」


「……俺は、もう、駄目だ、致命傷だよ、山田」


「鈴木殿、一応、外傷の方は、見当たらないでござるよ…」


「山田……骨折、してるんだよ、俺は…」


「鈴木殿…」


「生きてるのが、つらい……」


「す、鈴木殿ぉぉ……」



 鈴木の心は折れていた。

 それはもうバッキバキの複雑骨折である。

 これは惚れられる可能性もワンチャン──とか内心少し期待していただけに、こうもハッキリとわかる形で現実を突き付けられるとショックも一入(ヒトシオ)だ。

 山田も流石にどう声をかけたらいいかが分からない。もし自分がその立場だったなら簡単には立ち直れないだろうと感じているからだ。


 だがこの修羅場にゆっくりと近づいてくる男がいた。


 彼は鈴木の前に片膝立ちになると、鈴木に優しく語り掛ける。



「あの場面で咄嗟に他人を庇うなんて、早々出来るものでは無い。

 自信を持て、君はあの瞬間、誰よりも格好良かった」



 そう囁かれながら、差し出されるゴツゴツした男の手。

 鈴木はすっと心に浸透してきたその言葉に思わず涙し、差し出された手を握り返していた。

 男の力により軽々と上体を引き起こされる鈴木。そして男は視線が合うと、人好きのする笑顔を浮かべて少し声を張った。



「やれるな?」


「は、はい!」



 何が?とは言わない。

 鈴木は涙を拭うと反射的に返事をしていた。

 その返事に男は嬉しそうに頷くと、ゆっくりと立ち上がり、鈴木も促すように立ち上がらせた。

 男は辺りに視線を配り、そして少し真剣な声音で話を切り出した。



「先程の爆発音で辺りの腐った者共が集まりだしている。悠長にしている暇は無いだろう。彼女は私の後ろに乗せるとして…。君達は──丁度迎えが来たようだな」



 そう言う彼の視線の先には、倉庫の方からノロノロと亀の歩みのような速さでやってくるトラック。

 最初に見た時より外見が凸凹のボロボロであり、その惨状だけで運転手の死闘の後が伺えた。



「ったく、こっちが死にそうになってるのに何やってたかと思えば──」


「まぁちゃんと走れる様になってるだけで合格点でござろう」



 苦笑いする二人の視線の先では、これまで見たことの無い程真剣な面持ちのフルアーマー佐藤が、両手でハンドルをがっしりと握り、背筋ピーンして運転していたのだった。




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