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大・惨・事。

 


「な、なんと……灯台もと暗しとはこの事でござるな…」


「うぅ……今までの苦労は一体全体何だったでありますか…」


「まぁ、結果オーライだろ。欲しかった物が全部ここにあるんだ、積み込んで早く帰ろうぜ」



 早々に気持ちを切り替えて二トントラックの運転席のドアに向かう鈴木を後目に、今しがた状況説明をされた佐藤と山田の二人はフロアを見渡しながら目に見えて落ち込んでいた。

 何度も死地を乗り越えた先では結局得る物がなく、こんな最初期の入口に全てがあったなんて笑い話でしかないだろう。

 しかし、そんな二人の心境なんてお構い無しに鈴木はトラックの運転席へと上がり込んでいた。



「へへっ。扉開いてるし、鍵もついたままじゃん。これならいけるかぁ…?」



 運転席に座った鈴木は、ハンドルの脇に刺さったままの鍵に手を掛け意気揚々とその手を捻った。



 ──キュルキュル…ブルルォオオオオオン



 難なく始動するエンジン、震える車体、その躍動に鈴木の瞳が輝き、口角が持ち上がる。



「フヒヒ、こいつ、動くぞ!!フヒ、キタキタキタキタ!やってみるさ!!……えーっと確か、クラッチ…あれ?どこ?シフト?あれ?これ──」



 昔から機械が好きだった鈴木。

 勿論自動車もその範疇であり、自分で運転する日を夢見て運転方法の動画などを漁った時期もあった程だ。

 だが飽くまでもそういう時期があっただけで、知識はうろ覚え。

 勿論運転なんかした事がなかった鈴木が行き当たりばったりで運転出来る訳もなく…。



 ブゥォォオオオオオオオン──ガッガッガシャガシャガッシャァァアアアアアアン!



「───うぐ…あ、あれ、これオートマ車だったのか…通りで…う、いてて…」



 半端な知識によりトラックはMT(マニュアル)車という固定概念があった鈴木。乗り込んだトラックがAT(オートマ)車とは気付かないままクラッチペダルを探して何故かアクセルを踏み込み、そのまま何故かギアをバックにいれ猛烈な勢いで後ろにさがったのだ。


 急発進急加速、フルスロットルの鈴木が乗ったトラックは後方にあった家電製品等が入ったダンボールをボーリングよろしく軒並み弾き飛ばし、そのまま勢い良く倉庫内の壁へと追突して停止したのだった。

トラックは後方がひしゃげ、下からはオイルが盛れ出している。普通に大事故である。


「やぁ……失敗失敗…こんな日もあるわな、おーいてて」



 トラックの運転席からふらっと降りてきた鈴木は、ふらふらしながら首を抑えそう呟く。

 だが、そんな悪びれもしていない彼に猛烈に詰め寄る二人の姿があった、勿論佐藤と山田である。



「こここここここ殺す気でありますかぁぁあああ!?」


「ま、また!顔の前をヒュンって!い、いやもうブオオオオでござるよ!?」



 どうやらこの二人、鈴木のトラックに轢かれかけたようである。

 トラック後方でフロアの荷物を眺めていた二人は猛烈な勢いでさがってきたトラックを間一髪の所で回避していたのだ。



「ははっ、そんな大袈裟な…大した事ないやろ?」


「しょ!小生なんて!箱に助けられてなかったら完全に轢かれてたでありますぞ!?!!」


「拙者もギリギリ気付いて避けてなかったら今頃ミンチでござるよ!?!!」


 箱に助けられたと豪語する佐藤、実際先に跳ね飛ばされた段ボールが佐藤を車線外に押し出してなければ、気付いてなかった彼はトラックに巻き込まれていた事だろう。

 山田もトラックの接近に気付き咄嗟に身体を捻って避けていなければ、巻き込まれていたのは間違いなかった。



「ま、まぁ、怪我がないようでよかったよ、うん、よかった」


「鈴木氏~!?」「鈴木殿~!?」


「あはは…」



 二人のあまりの形相に、一応の罪悪感を感じながらも笑って誤魔化しに入る鈴木。彼の口から謝罪の言葉は出ない。本当に悪いと感じてる時は謝れない、それが鈴木という男、もといコミュ(エリートニート)なのである。




「しかし、これはまぁ…」


「やってしまったでござるなぁ…」


「大惨事…であります」



 そんな一悶着から一息ついて改めて辺りを見渡す三人。

 数分前までは小綺麗に置いてあった段ボール達だが、今ではモーセの十戒の如きトラックの通り道を中心に散々たる有様である。

 弾き飛ばされた箱が更に他の箱を巻き込み、崩れ倒れ潰れ…佐藤が言った通り正に大惨事である。



「一見無事そうな箱はチラホラあるが…」


「中身まで無事かは開けるまでわからないでござるなぁ」


「これは一気にハードモードであります…」



 惨状を目の当たりにして、どうするべ、とやる気ゼロで途方に暮れる三人。


 だが忘れてはいけない。

 既に世界はポストアポカリプス!

 お外はどこもかしこもゾンビ蔓延るデスゾーンなのである!


 トラックがクラッシュするような轟音が鳴り響けば、勿論こうなることは予想できた事なのだ。


 地響きにも似た地面の振動、そして微かに聞こえ始めた呻き声。

 それには緊張感ゼロだった三人も徐々に気付き出す。



「あ、まじか、そうなるか、そうだよな…」


「そうでござった……今ここはゾンビ蔓延るショッピングモール…」


「あ、あああばばばばばばば……」



 彼等の視界の先、シャッターが上がったフロアから見える外の景色。

 まだまだ距離はあるが、ショッピングモールの大型の駐車場があるだろう方向から迫る確かな人影の集団を三人は捉えていた。



「嘘だと言ってよバーニィ」


「はぁ…一難去ってまた一難去ってまた…でござるか」


「あばばばばばばばばばばばばばばばば」



 もうこの展開にもそろそろ慣れてきちゃったよと言わんばかりの様子で彼等は迫り来るゾンビの集団を暫し他人事の様に眺めていた、若干一名あばあば言ってるのを除いて。



「ん、あれ、なんか先頭…おかしくね?」


「んー?拙者にはまだよく見えないでござるな」


「……」



 だがここで鈴木の目はいつもの展開と少し違うものを視認していた。

 鈴木の一言で山田も目を凝らして見るがわからず、佐藤に至っては白目を向いて卒倒しそうな様子であったがギリギリ持ち直した様だ。



「あれは──人か?しかも、生きてる…?」


「え、生きてる、でござるか!?」


「…ほぇ?」



 逃げるのも忘れて暫し注視する三人、そして徐々に迫り来る人影の集団。

 段々とそれらとの距離も近付いてくると、最初不確かだったその存在も鈴木の目にはしっかりとその姿を確認する事が出来た。




「あぁ、やっぱり生きてる人間だ───しかも女」



 集団の少し先、離れたところを逃げるように走る人影──それは世界崩壊後に初めて遭遇する女性の姿だった。







これにてストックは終了です。

感想くれた方やポイントを入れてくれた方、ブックマークをしてくれた方には本当に感謝しております。

ただ思ったより他の読者さんの反応がイマイチみたいなのでちょっとモチベーション不足に陥っており、今の所続きを書く目処がたっていません。

本当に申し訳ありませんが、続きの執筆は今のところ未定、気が向いた時に書くということでご理解ください。


続きが読みたい、そう思ってくれる方がいましたら、どうか反応を…感想、レビュー、ポイントお待ちしております。

どうかモチベーションをください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 冒頭の3人各自の話はちょっと微妙だったけど 本編が始まると予想以上に面白い。
[良い点] 面白いです 禿げてて44歳の鈴木が脳内で美青年になってるくらい何故か好き
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