ドタバタ。
店舗から飛び出した鈴木は瞬時に辺りを見渡した。
店頭から正面左側には一階へのエスカレーターが見え、そしてその左右にはそれぞれ他の店舗が並ぶ通路が伸びる。
後方からは佐藤の叫び声が聞こえ、それに呼応するように左右に並ぶ店舗からチラホラとゾンビが姿を現し始めている。
うかうかしているとすぐに周りを囲まれてしまうと判断した鈴木は逃走ルートを決めるため、まずは階下を確認した。
眼前に広がる階下には初めに見た時と同じようにゾンビの大群が犇めいている。
だが、状況はその時より格段に悪くなっているようだった。
先程まではこちらに気付いていなかった筈のその大群だが、電気屋に近い位置にいた一部のゾンビが次々とエスカレーターで運ばれ、今まさに二階へと到着しようとしていたのだ。
「マジかよっ!?」
「これは流石にヤバイでござるよ!」
自分達が行きに通ってきたのは左のエスカレーターがある側の通路だ。
来るまでに見かけたゾンビを倒してきた事もあり比較的手薄だった筈の左側、だがそこから次々とゾンビが上がってきてしまっては三人が無事に通ることは不可能だろう。
右側に視線をやれば既に結構な数のゾンビが道を塞いで、こちらへと迫ってきている。
後ろは言わずもがな、退路はない。
「左だ!無理矢理突破する!」
そう言うや否やスリングを構え、五百円玉を握り締める鈴木。
丁度エスカレーターで上がってきたゾンビに照準を合わせると、間髪いれずに撃ち放った。
だが、いつも通り必中するかに思えた玉は、途中で軌道を変え、変化球のフォークのような軌跡をえがき、目標手前の地面へと落ちる。
「曲がった!?──くそっ!円形だから回転が偏りやすいのか!」
「任せるでござる!」
自身が発射したスリングの結果に驚愕する鈴木。
慌てて次の玉を用意するが、それよりも早く、その隣を山田が駆け抜けた。
低い姿勢から全身をつかって真っ直ぐ突き出された山田の木刀は、先頭のゾンビの額を捉え、勢いのまま後続のゾンビを捲き込みエスカレーター横から階下へと落ちる。
だがそれで安心は出来なかった。
山田の視界は、エスカレーターを掛け上がろうとしてくる赤い眼のゾンビ──グールを捉えていた。
「赤い眼!?すぐにグールが上がってくるでござ───」
振り返りつつ叫ぶ山田の言葉は最後まで言うことはできなかった。
何故なら山田が振り返った先、眼前には怒濤の勢いで巨大な箱が迫ってきていたのだから。
「あっぶ!?」
「あっ──」
「ほえっ!?」
間一髪でその箱を避ける山田、咄嗟の事で声を掛けそびれた鈴木、そしてその横を呆けた表情で台車を押しながら佐藤が通り過ぎる。
ブレーキは搭載していません!という勢いで走り抜けた佐藤は、そのまま勢いよくエスカレーターへと台車をぶち込んだ。
どうやらデカイ箱で視界が妨げられ、前が見えていなかったようだ。
そんなノンブレーキフルアクセルな台車に乗せられていた冷蔵庫の箱は、そのまま慣性によって飛んでいく。
エスカレーターの昇り口、ゾンビが列をなして登ってくるその通路を、その冷蔵庫は物凄い勢いで滑り落ちていった。
先頭のグールが結構な勢いで吹き飛び、その後ろのゾンビ達も次々に撥ね飛ばされ宙を舞っていく。
そして、そんな勢いに乗った冷蔵庫はエスカレーター上の全てのゾンビ達を撥ね飛ばすだけじゃ飽き足らず、一階に犇めくゾンビ達すらももののついでと十数体ばかり撥ね飛ばして、轟音と共に自動販売機に突っ込んで漸くその勢いを止めた。
あまりの光景に三人は三者三様に間抜け面を晒している。
鈴木の視線の先、撥ね飛ばされたグールはピクリとも動かない、どうやら当たり所が悪かったようだ。と、鈴木は他人事のように呆然としている。
冷蔵庫に轢かれかけた山田は少し漏らして呆けたまま立ち竦み、折角運んでいた冷蔵庫が飛んでいった佐藤は残念そうに階下に視線を送っていた。
だが、そんな三人を現実は待ってくれない。
後方からはすぐそこまでゾンビが迫っているのだ。
傍観者だった鈴木だけがいち早く立ち直り、行動に移った。
「と、取り敢えずチャンスだ!今のうちに左に抜けるぞ!」
「うひぃ…」
「あぁ…冷蔵庫が…」
そう言い、二人のお尻を叩き、走り出す鈴木。
二人もなんとか気を持ち直しその後に続いた。
階下のゾンビは自販機に突っ込んだ冷蔵庫に群がっており、二階に上がってくる気配はもうない。
だが、後方からのゾンビは右側からのゾンビと合流し、数十体の塊となり今もなお執拗に三人を追い掛けてきていた。




